かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」13

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、13回目はトキシラズ山本さんです。

みみっちい私

価値観の差というものは悩ましいもので、私にとっては宝でも、誰かにとっては無用の長物。トキシラズにこられたお客さんに「こんな古い本よーさんあったのにぃ、全部捨てたわー」と言われては悲しい気分になっています。というか、「そんなインフォメーションいらないよ!捨てる前にプリーズ!」と憤りさえ覚えます。まあ私のものではないのだから、怒られるいわれはもちろん無いのだけれど。

13のブック

『牧師のたのしみ』ロアルド・ダール

さて、そんなみみっちい私が、そのみみっちさゆえに忘れられない小説を今日はご紹介します。

ロアルド・ダール『異色作家短篇集<1> キス・キス』の中に収められている、『牧師のたのしみ』です。

『異色作家短篇集<1> キス・キス』
発売日: 1974年9月
著者: ロアルド・ダール・著、開高健・訳
出版社: 早川書房
ページ数: 304ページ
ISBN: 4-15-200101-1

 

作者のロアルド・ダールは1916年生まれのイギリス人。元々はイギリス空軍で活躍していましたが重傷を負って退役。その後、小説や童話を書き始めます。作品は諧謔的でシニカルな雰囲気があり癖になる面白さです。有名なのは『チョコレート工場の秘密』。映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作です。ちなみに、宮崎駿さんもロアルド・ダールのファンだとか。

『牧師のたのしみ』は主人公のボギス氏がイングランドの片田舎を訪れるところから始まります。ボギス氏の生業は骨董家具の売買。それも、田舎の納屋なんかで、価値も理解されないまま打ち捨てられているものを、可能な限り安く買いたたくことを得意としています。村人に近づくために牧師の格好をしていますが、もちろん牧師ではありません、変装です。

そんなボギス氏、この日はとんでもないお宝を探し出します。「チッペンデールの整理箪笥」と呼ばれるもので、まさに幻の逸品。この大発見はボギス氏の業界での評判を確固たるものにし、目録には永遠にボギス氏の名前が刻まれる。そしてもちろん、莫大な利益を生むものなのです。

喉から手が出るほど欲しい品ですが、ボギス氏はもちろん値切りにかかります。あの手この手を使い、この箪笥は現代のもので、骨董価値はまったくない。実を言うと足の部分の高さがちょうど良いから、買い取ったら切り取って家のコーヒーテーブルの修理に使いたい、とまで言います。

なんとか商談が成立し(推定価格の1000分の1!)、ボギス氏は近くに停めた車を取りにいそいそとかけていきます。そこで村人は、「おい、こんなでかい箪笥が牧師の車に入るわけない」と言い出し、なんと足をのこぎりで全部切ってしまいます。それだけならまだしも、「おい、足だけじゃなく全部を車に積まないと金は払わんというんじゃないか?絶対に乗るように小さくしておくか」と手には斧!ヤーメーテー。

この小説を思い出すたびに胸が苦しくなります。みみっちいとは思うけれど、古いものが好きな性分で、抑えられないのです。

文:山本岳史(トキシラズ)
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あさのは商店

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姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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