かきくけコラム :「おばあちゃんZの言葉」04

grandmaZ

毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

姫路の言葉が好きな、あさのは商店店主・篠原玲子による「おばあちゃんZの言葉」の4回目です。

過去の連載記事はこちら
01の言葉 何しよってん ゆーて ゆーたらな
02の言葉 行っきょっての人
03の言葉 姑さんがな、握っとったったら

Zの言葉04

これまで、Zとの会話データの一部を抜き出して、言葉に関することと私が感じたことを書いてきたのですが、今回は番外編です。会話データを見ていると、現在も続いているZの趣味が、会話を収録したときにすでに始まっていたことを発見したので、そのことについて書きます。

R : これなに?

Z : いやー、くれたったん。

R : こいのぼり?

Z : ふん。鉛筆で屋根して、しゅーっと絵の具流して。

R : なー、きれーやなー。

Z : なー。こんなんなんか見て。新聞にちょっと出とった、切り抜いて。これも。これも新聞。ほいで、いや、これはおり込みの

R : チラシのんてどーなんかね。

Z : えー?

R : 千代紙のはきれいやけど。

Z : チラシもええで、あんた

<2004年5月に収録・読みやすいように加工>

チラシもええで、あんた

Zは88歳の今も自宅にひとりで暮らしていますが、心臓が悪いこともあり、2,3ヵ月に1回ほどの通院をのぞいて、外に出かけることはありません。ごはん作りや洗濯など身の回りのことは自分でしますが、それ以外の起きている時間は、ほぼずっと、テレビの真ん前のこたつに座って過ごしています。

そんなZの唯一の趣味は、はがきに貼り絵をすることです。この会話にも出てきているように、新聞や折り込みチラシ、包装紙などの「ええとこ」を切り抜いたものを、組み合わせて貼ります。この会話を収録したのは2004年ですから、10年以上これを飽きずに続けていることになります。


上の写真は、きのう、私がZ宅に行ってもらってきたはがきです。最初は、空と家とその下の線だけだったのですが、桜の花のパーツがあるのを見つけて、追加で貼っていました。下のスペースにあるのではだめで、こういうふうに貼ることで「奥行き」が出るそうです。なるほど。何年も続けていると、作るものが「だんだん垢抜けてきた」ともよく言っています。

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カッターは使わず、細かいものも全部はさみで切ります。そのはさみは、姑が造花の細工に使っていたものだそうです。切ったり貼ったり、どうしたらきれいかなど考えたりすることが、「ボケ防止」になったらいいなと思っているそうです。前向きでありがたいことです。

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パーツのストックは、えらいことになっています。新聞やチラシのどこにこんな絵があるんやろう、と思います。「家」「花」「乗り物」など種類ごとに分けて、箱に入れてあります。「背景」や「線」ばかり集めた箱もあります。犬や人間などの「生き物」は使わない、というポリシーもあるそうです。「気色悪い」そうです。しかし、下の写真を見ると鳥はありました。「ほ乳類」という線引きでしょうか。気持ちはなんとなくわかります。


作る勢いはものすごく、官製はがきを1ヵ月に1回は100枚単位で買っていると思います。前述のように、Zは外出しないのではがきを買いに行くことができません。そこでZは、家の郵便受けに「はがき100枚お願いします」などと書いた紙を貼っておくことを思いつきました。郵便配達の人が見て、届けてくれるそうです。いい方法を思いついた!といつも得意そうです。

そして、作ったはがきは、これまたすごい勢いで出しまくります。友だちや「小学校のボーイフレンド」、兄弟、子や孫など、出す相手もたくさんいるようです。我が家にも、私や母あてに1週間に5枚くらい届きます。1日に3枚来ることもあります。内容はいつもだいたい同じで、「しんどい」「ますます弱ってきている」「感謝を忘れないように」「好きなことして暮らせて幸せ」というようなことが繰り返し書いてあります。


とは言え、生産量が使用量を大きく上回り、完成したはがきの束がいくつもできています。私は、去年から、年賀状のお返しに祖母のはがきを使うことにしたのですが、もらいに行くとたいへん喜びます。「おばあちゃんが死んだらあんたに全部あげる」とか「誰か好きな人にあげて」などと言いますが、死んだおばあちゃんが作ったはがきというのもなかなか使いにくいし、他人ならなおさらだと思うので、「おばあちゃんが死んだときの連絡用と喪中はがきの分だけ残して、あとは使い切ってから死んでなー」と言ってあります。

文:篠原玲子(あさのは商店)
http://www.asanoha.net/

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あさのは商店

姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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