かきくけコラム :「お坊さん、故郷を想う」07


obousan

毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。


姫路出身のお坊さん・なわたっせんさんの7回目です。お楽しみください。

07の想起「モクテキ」

あの場所

先月末、お寺の法要で帰省した際、ついにあの場所へ行くことができました!
 
あの場所とは、ほかでもありません。実家の近くにできたJR東姫路駅です(05の想起「タチコギ」)。「近い、近い」とは聞いていましたが、予想以上の近さで驚きました。ただ、それ以上に驚いたのは圧倒的な「駅前」感のなさ、そして「故郷」感のなさです。

東京から実家へ帰る場合、これまでなら姫路駅までは新幹線に乗り、そこから徒歩かバスで帰っていたわけですが、今回は西明石行の鈍行に乗って一駅ぶん東に戻りました。不思議な感覚でした。

確実に実家には近づいているはずなのですが、なぜか故郷から離れていく感じがしたのです。それはおそらく、私の記憶に刻まれた故郷とは、どんなに様相を変えようが、実家からちょっと遠かろうが、あのJR姫路駅の「駅前」を通らなければならないということなのでしょう。

プチ家出

その時に、あることに気がつきました。私は自分で思っていた以上に、JR姫路駅の駅前に思い入れがあったのです。そして、9年前のちょうど今頃に、その「駅前」で過ごした晩のことを思い出しました。
 
当時、大学院を出てお寺に帰っていた私は、ある出来事がきっかけで「出家」ならぬ「家出」をすることになりました。「家出」と言っても、その時点では、いわゆるプチ家出です。家を出ても行くあてのない私は、夜の駅前をひたすら彷徨いました。そんな時、脳裏に尾崎豊の歌が流れるのは、きっと私だけではないでしょう。そして何時間か彷徨い続けた私が行き着いたのは、(今はおそらく存在しない)駅近くにあったマンガ喫茶でした。

数年ぶりに利用したマンガ喫茶は、学生時代に比べると段違いに進化していましたが、それでもどこか懐かしい雰囲気がただよっており、学生気分を取り戻してその場を楽しみました。ジュース飲み放題、ソフトクリーム食べ放題、シャワー完備、そして当然、マンガ読み放題。わたしは家を出るきっかけとなったいまわしき出来事(家族との衝突)も忘れ、ドリンク片手にひたすらマンガを読みました。

故郷の街のマンガ喫茶で過ごす夜は、格別に快適でした。

本来の目的を忘れて

現在、わたしは東京のとある研究所で、仏教思想・哲学の研究をしています。つい先日、明治日本の清沢満之という仏教者が日記に書いた英文を見て、同じく9年前の「駅前」の夜を思い出しました。

What then is usually done?
Men generally act as a traveller would do on his way to his own country, when he enters a good inn, and being pleased with it should remain there (forgetful of his true purpose).

これは古代ローマの哲学者(エピクテタス)の言葉が英訳されたものですが、簡単に表すと「わたしたちが日常的にやらかしてしまうことは、ちょうど旅人(a traveller)が故郷(his own country)へ帰る時に、途中で立ち寄った快適な宿(a good inn)にとどまってしまうようなものだ」というのです。
 
そして、最後の丸カッコ内は原文にない言葉で、「彼の本当の目的を忘れて(forgetful of his true purpose)」と書き足されています。つまり、わたしたちはすぐに、日常的な快適さにおぼれて、故郷へ帰るという本来の目的を忘れてしまうというのです。

実は9年前のプチ家出をしたのは、研究の道を進むのをあきらめて、故郷に帰った年の春でした。そこには「自分は研究者ではなく、生まれ育った寺の住職になるのだ」という決断と自負心がありました。しかし、帰ってから目の当たりにした寺での生活は、予期していたものとは大きくかけ離れ、納得しがたい出来事のオンパレードでした。そうしてついにはフラストレーションが爆発して、快適なマンガ喫茶で一晩を過ごすことになったのです。(しかも、選んだマンガは『サラリーマン金太郎』!)

つまり、本来の目的を忘れてしまっていたわけです。

その翌月、わたしは京都の本山から連絡を受けて、急きょ、京都で仕事をすることになり、それ以来5年間、本当の意味での家出生活を送ることになります。そのあたりと、再度の帰郷、そして上京の経緯については、またの機会にお話しさせていただきます。合掌

文責:なわたっせん
勤務先 親鸞仏教センター
自坊  明泉寺 Facebookページ

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公開日 : 2016-6-8
最新更新日 : 2016-6-8