オススメ映画紹介コラム”シネマ裏メニュー”vol.3『NO(ノー)』

シネマ裏メニュー

第3回目は『NO(ノー)』

オススメ映画紹介コラム「シネマ裏メニュー」も第3回目となりました。

今回ご紹介するのは、パブロ・ラライン監督の映画『NO(ノー)』です。
公式サイト→『NO』

この映画のコピーは、ズバリ「CMは世界を変えられるのか!?」。

たかがCMに大げさすぎる!と思われる方もいるかもしれません。

しかし、たかがCMだと言おうと思えば言えるからこそ、
それに打ち込む人たちの熱さや純粋さが胸に迫ってくるのです。

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©2012 Participant Media No Holdings, LLC

こちらの映画、6月29日に姫路駅前のキャスパホールにて自主上映会が行われます。
こちらの記事の最後で上映についての詳細を紹介しています。

詳細はこちら▶

エッセイ「世界はCMを変えられるのか?――『NO』」(竹中啓二)

《矜持(きょうじ)》という言葉を数年前に覚えて、気にし続けております。

辞書など引いてみる、というお決まりの行動に出てみれば、

【矜持】自分の能力を信じていだく誇り。自負。正しくは「矜恃」と書く。
「横綱としての―」〔広辞苑 第四版〕

中途半端に古い版だが我が家にはこの辞書しかない。そう言えば久々に辞書など引いた。
でも引いてみるものだ。きちんと《矜恃》と書こう。

『NO』はチリが独裁政権であったことから国際的な批判が高まり、その是非を問う国民投票が行われた1988年が舞台となっている。

政権支持派が「YES」、反対派が「NO」。この2派がテレビで27日間、1日15分のPR番組を流すことができる。
その壮絶なPR合戦を、「NO」派の広告マン・レネを主人公に描く。

事実に基づくことなので結果は決まっているわけで、観る側としては興味はそこにない。どのように勝利を勝ち取るのかという過程にある。

けど、僕の興味は映画を観ていくうちに更に逸れていく。立ちのぼってきたのが広告マンという職業人としての《矜恃》だ。

先に挙げた広辞苑での《矜恃》の例文に「横綱としての――」とあった。

「横綱としての矜恃」つまりは自己満足のプライドではなく、対外的にも「横綱」が成立するため絶対に持っていなければならない、変えられないものが《矜恃》だ。

レネの姿勢も一貫して変わっていない。CMのプレゼンの時にいうセリフも選挙前も後も変わらない――「チリは未来志向ですから」。

レネは「NO」派への関わりを、妻や友人との関係から――つまりは生活の延長として深めていくのだが、「NO」をクライアントにすることを決めた決定的瞬間は次のシーンだと思う。

「勝てると思っているのかどうか。何のためにやっている?」とレネが「NO」派の面々に意見するところ。

帰ってきた答えが「勝てない。これは啓発で、番組枠を埋めるため」

職業人ならこれが一番カチンとくると思う。表情は平静だったが。

その後、彼は広告マンとして、あくまで『NO』を勝たせるために奮闘することになる。

レネの職業人としての《矜恃》が最も現れるのは、投票の結果が確定してからだ。

歓喜する群衆の中、彼はどのような様子なのか注目していただきたい。そして「YES」派についたレネの上司にも――。

レネはクライアントを、生活の延長で決め、結果的にはどうやら誤らずに済んだ。
生活の延長――地に足の着いた感触を常に持ち続けることは《矜恃》と密接に関わることらしい。

広告マンが自分の能力を過信し《矜恃》を忘れた例もある。

国際NGOなどに在籍し、数々の武装解除に関わってこられた伊勢﨑健治氏の『本当の戦争の話をしよう』(朝日出版社)に「ナイラの証言」についての記述がある。

要約すると――1991年に開戦された湾岸戦争。その前段にアメリカ連邦議会の人権問題議員連盟でなされた、15歳のクウェート人の女の子・ナイラによる証言。

クウェートの病院でボランティアとして働いていた彼女は、イラク軍兵士の略奪現場を目撃する。

彼らは高価な保育器を奪うため、新生児を次々と床に放り出した。多くの赤ちゃんが死んでいく様子をナイラは涙ながらに語った。
ブッシュ大統領も他の議員にも発言は引用されていく。
政権の支持率は上がって行き、開戦。

しかし、終戦後にとんでもないことが発覚する。

イラク兵士が保育器を奪ったことも、新生児を死なせたことも確認できない。
そして、ナイラは別の本名があり、クウェート駐在大使の娘だった。もちろんクウェートの病院でのボランティア経験もない。

この一連の「広告」は、クウェート大使館が立ち上げたNGOと契約したアメリカのPRコンサルタント会社が担当していた――。

『NO』では1988年当時を再現するため、全編画面比率は4:3、いわゆるスタンダードサイズが採用されている。
現在の標準的なサイズの16:9やビスタサイズに慣れた目では、やや狭く映るかもしれない。

スタンダードの利点のひとつは、余分な背景を入れることなく、人物そのものをクローズアップできることだ。

「CMは世界を変えられるのか!?」とは、この映画のコピーだが、そもそもこの世界はどんなCMを欲しているのだろう。

《矜恃》を持った職業人、レネにクローズアップしながら考えてみるのも良いかもしれない。男前だし。

漫画 「職人魂」(赤松かおり)

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次回ご紹介する映画は、アニメーション短編集「WAT2016」の予定です。

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CMは世界を変えられるのか!? 『NO』 姫路上映会 詳細

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日 時:
2016年6月29日(水)
①10:30 ②14:00 ③19:00

場 所:
姫路キャスパホール

兵庫県姫路市西駅前町88

料 金:
一 般/60歳以上/身障
999円

小~高校生
500円

主 催:
映画『NO』上映委員会

問い合わせ・事前申込先 TEL:
090-6554-5464 / 079-281-8007
※満席になり次第、入場を締め切らせていただきます。ご了承ください。

協 力:
姫路シネマクラブ・姫路労音・姫路市民劇場

後 援:
姫路市・(公財)姫路市文化国際交流財団

赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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