かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」06


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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、6回目は陽文庫みずいけさんです。

06のブック

「弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー」高橋秀実

発売日: 2012年09月
著者: 高橋秀実
出版社: 新潮社
サイズ: 単行本
ページ数: 203p
ISBNコード: 9784104738045
※現在は文庫本になっています。

 

部員たちは神妙な様子だが、よく見るとそれぞれ考え事をしているようだった。察するに、彼らは「監督が今話しているから自分は聞いている」と動作を論理づけているのではないだろうか。試合でのプレイもそうだった。守備の時は「球が来たから捕る」「捕ったから投げる」。打撃の際も「球が来たから打つ」あるいは、「打てそうだから打つ」「打ったから走る」という具合に動作を論理づけているようで、それゆえに論理と論理の隙間でついのんびりしてしまうのである。私自身のんびりした体質なのでよくわかるが、のんびりしていると常に状況に出遅れる。青木監督が大木君に指示さていたように、野球しているのに「野球しようとする」とそれだけで出遅れてしまう。これは理屈から入る開成の宿命のようなもので、打開するにはやはり取れる時に大量得点をして終わりにするしかないのだろう。
(p.52より抜粋)

毎年東京大学に200人近い合格者を出す開成高校。その野球部のお話です。

平成17年夏の東東京都大会で同校は、
1回戦 開成10 - 2都立科学技術高校
2回戦 開成13 - 3都立八丈高校
3回戦 開成14 - 3都立九段高校
4回戦 開成9 - 5都立淵江高校
5回戦 開成3 - 10国士舘高校
と、快進撃を続け、東京都大会ベスト16の成績を残します。

最後に敗れた国士舘高校が優勝したので、もしかすると開成高校が甲子園に行っていたかもしれません。僕はたまたま本屋でこの本を見つけ、手に取りました。スポーツのコーナーにありましたが、スポーツ本によく見られる「スポーツhow-toモノ」「スポーツ選手自伝」「スポーツライターによる分析本」とは違う、「スポーツ文芸書」とでもいうのでしょうか。スポーツがあまり好きではない方、野球が好きではない方にも楽しめる本となっています。

また少し本文を抜粋。

かねてより薄々感じてはいたが、開成の生徒たちのコミュニケーションはどこか妙である。例えば、私が練習の取材をすべく西日暮里駅から歩いて開成高校に向かう途中で、ある部員に会い「あれっ、今日練習は?」とたずねると、耳につけたイヤホンを外して「今日の練習は自由です」などと答える。自由練習なのはわかっており、彼がそれに参加しないのかとたずねているのにそう答え、さらには「練習は基本的に木曜日か土日で、木曜日にある時は土曜日はありません。それに期末試験が近いので…」などと開成の日程を延々と説明したりする。話せば話すほどバリアが張られていくようで、彼自身のことには容易に踏み込めないのだ。
(p.159より抜粋)

というように、一般?の方とはどこかコミュニケーションが異なっています。異なるというか、本文中では作者は「妙」と言っていますが、世間のマジョリティーの人が通常の流れで彼らに接すると、おそらく心の中で「ん?」と感じることが多いのではないのかなと。
行動や動きの前に、彼らには思考や、意味が入るからかもしれませんが、少し滑稽な感じやまどろっこしさを感じてしまうと思います。まさに立ち止まって考えてしまうというか、禅問答のような感じもあり…

スポーツは型や慣れが大事な気がしますが、彼らはひとつひとつ納得しないと動けないからか、本文を読んでいるとかけ声なども少し独特なようです。そんな彼らがなぜ甲子園予選ベスト16まで行けたのか、どんな練習をして、どんなことを考えながら練習しているのか、それらが最初から最後まで愉快?珍妙なエピソードとともにたっぷり描かれています。

この本を読んで、野球がうまくなることはたぶんありません。
読み進めていくたびに(引っかかるとこが多いのであまり素早くは読み進められませんが)、自分と生徒達との思考の深さの違いにもびっくりしてしまいます。

作者の高橋秀実さんはノンフィクションライターで、「開成高校野球部」というひと癖ある素材を、スポーツライターではない人が描いたのも良かったのではないのかなと。

作者のあとがきも少々…

今回も原稿は妻の英美がチェックしてくれました。野球嫌いの彼女に逐一「ファウルボールって、何?」などと訊かれることで、私も野球の原点に戻って言葉を選ぶことができました。ありがとう。そういった経緯も含めまして野球に興味のない人にも読んでいただけたら幸甚です。
(p.203謝辞より)

あとがきを読んでいると、作者のほのぼのとした人柄の良さも感じ取れます。著者の高橋さんからの野球部員への愛、監督からの部員への愛、部員の自分自身に対する純粋さがとてもとてもよく出た、良い本だと思います。

勝った負けたはあまりありませんが、夏の終わりに読めば、心に爽やかな風が吹く、そんな本です。

終わり

文:みずいけあきら(陽文庫)
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公開日 : 2016-8-31
最新更新日 : 2016-8-27