毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、27回目はトキシラズ山本さんです。
言葉の重みが違う
こんにちは、トキシラズの山本です。「言葉の重みが違う」というのはよく聞く言葉ですが、このところとみにそのことを思います。というのも、隔月で行っているイベント『ブックブックこんにちは』でゲストの方々の話を聞くようになったからだと思います。
彼らは時代の寵児でもなければ、業界の風雲児、でもないかもしれません。しかし、当たり前のように何かに打ち込んでいる人の持つ一種の重量が、ほとんど物理的な重さを持つように、心にズンとくることがあるのです。それは、有名人の講演会を聞きに行くよりも、人の気持ちの底の方に届く言葉のように思います。そんな『ブックブックこんにちは』次回は7月29日です、、では。
ここで終わるとただの宣伝ですね。要するに、同じこと言っても、言う人によっては軽く聞こえるなぁー。ということです。例えば私が「人は城」というのと、武田信玄が「人は城」というのでは全然重みが違う。
私が言っても「何いうとんねん、そもそも城もっとらへんやん!」となります。ですが信玄公が言えば、「ははー、さすがは殿」となって、掛け軸になったりするでしょう。今も演歌歌手の人がサイン色紙に「人は城」と書いているかもしれない。それほど大きな隔たりがある。
本ばかり読んでいても、武田信玄にはなれない。やはり体験に裏打ちされなければ、ペラペラと紙のような言葉になってしまうのです。
27のブック
『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』佐々涼子
『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』
発売日: 2014/6/20
著者: 佐々涼子
出版社: 早川書房
ページ数: 267ページ
ISBN: 4152094605
3・11の震災で壊滅的な打撃を受けた日本製紙・石巻工場。その復興と当時の石巻の様子に迫ったノンフィクションです。
震災時、石巻湾に面した製紙工場はその全域が津波に襲われました。原料のパルプは流されてあちこちにヘドロのように堆積し、製品は濡れて使い物にならない。機械類は海水につかり、電気も来ていない、そもそも土砂に埋もれてどこに何があるのかさえわからない。街では食料がなく、治安も悪くなって、若者がバットやゴルフクラブを持ってガソリン泥棒やコンビニ強盗をしている。そんな中、工場長は「半年で機械を動かす」という超スピード復興を宣言します。
生きる、生活する、仕事をする。当たり前に思えることが当たり前にできなくなった世界で、もがき苦しんだ人たちの声は、とてつもなく重い意味を持って読む人に迫ってきます。
それから、私の周りに溢れる紙に対する考え方も変わりました。コラムの前半で、紙のようにペラペラな言葉なんて言いましたが、こんなにも多くの人たちの思いが詰まった紙を私の言葉の重みのなさを表す比喩に使ってしまってすいません!という気持ちで今はいっぱいです。
文:山本岳史(トキシラズ)
ブログ ブックカフェ・トキシラズ