かきくけコラム :「大人にも響く子どもの本 」6

毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。

第6の発見 結果が出るのを待てない人へ『ハイジ』

<あらすじ>
両親を亡くした少女ハイジは、5歳まで叔母のデーテに育てられました。
しかしデーテの仕事の都合で、アルプスの山で人間嫌いの孤独に暮らすおじいさんに引き取られます。
純真無垢なハイジは、おじいさんや山羊飼いのペーターやその家族を魅了していきます。
ある日、ハイジは足の悪いお金持ちのお嬢様、クララの遊び相手になるために、都会のフランクフルトへ行くことになりました。
クララと仲良くなったハイジは、山へ帰りたい気持ちを隠してフランクフルトで暮らし始めます。

8月は、お盆休みで故郷に帰省される方も多いのではないでしょうか。今回は高畑勲監督のアニメでも有名な、故郷のアルプスの山を恋しがる『ハイジ』の物語の言葉をご紹介します。

<心に響く言葉>

「何があんたのためになるか、神さまはとっくにごぞんじですとも。だから、きっとこう考えていらっしゃるのよ。
―――うん、ハイジのねがいはぜひかなえてやらなくては。だが、それにはやっぱり時期というものがあって、あの子がほんとによろこべるときまで待たなければ。もし、いまあの子の思いどおりにしてやってしまって、あとになってその結果があまりよくなかったと気づいたら、あの子はきっと泣きながら、あーあ、神さまがわたしのねがいをききとどけてくださらなければよかった、思ったほどよくならなかったわ、なんていうだろうから―――」

『ハイジ(上)』ヨハンナ・シュピーリ作、矢川澄子訳 福音館文庫、p.211

ハイジは故郷のアルプスの自然から引き離され、都会のフランクフルトの閉鎖的な環境のなかで、ホームシックになってしまいます。
しかし、親切にしてくれるクララを悲しませないためにも、アルプスの山に帰りたいという気持ちを誰にも言えず、ハイジは元気をなくしていきます。

そんなハイジに、優しいクララのおばあさまは「何か悩みがあるの?」と尋ねますが、ハイジは悲しそうに「話せません」と答えます。
かわいそうに思ったおばあさまは「神様になら何を話してもいいのよ」といってハイジにお祈りの仕方を教えます。

ところがしばらくたつと、ハイジはまた落ち込んでしまいます。そこでおばあさまが再び話をきくと、ハイジは「もうお祈りしなくなっちゃった。毎日同じことを祈り続けたけれど、神様はきいてくださらなかったわ。」と答えます。

現代に生きる私達も、努力してすぐに結果がでているときには自信が持てますし、やっていることに意味があると思えて、コツコツ頑張るのは難しいことではないと思います。
しかし何をやってもうまくいかない時や、空回りしてしまう時には、無意味に感じ、投げだしそうになります。

ハイジも毎日一生懸命願っても、何も変わらない状況に悩んでいました。
そんなとき、クララのおばあさまがかけてくれた「神様はきっと、いい時に助けてくださるわ。安心していなさいね」という言葉が、ハイジの胸に響きます。

故郷のアルプスの山に戻った後、ハイジは「神様に忘れられた者は、一生そのままなんだ」と嘆くおじいさんに、「もし神様が、わたしがお願いしたことをすぐにかなえてくださっていたら、ペーターのおばあさんに少ししかパンをもってこられなかったし、文字を覚えて本を読んで元気づけてあげることもできなかった。でも神様はすべてをよく考えて、わたしが思っていたより、ずっといい結果にしてくださったわ」と話して聞かせます。

ハイジに感化されたおじいさんは、若いときに仲違いしてから、頑なに村人との付き合いを拒んでいましたが、最後には再び村人と交流をもつようになりました。

私はキリスト教徒ではないので、教えについてはわかりませんが、お年寄りが「お天道さまがみてるよ」というように、神様とは哲学のようなものだと思います。

もちろん「いや、実際の世の中はそんなに甘くないよ」と皮肉に思ってしまう人がいるのもわかります。

しかし、クララのおばあさまの言葉はシンプルで誰にでも分かりやすく、私は励まされました。

くじけそうなとき、お守りのようにして読み返しています。

結果がでるのを待てなくて悩んでいるあなたにも、支えになってくれる一冊だと思います。

※参考文献:松永美穂『100分de名著 シュピリ アルプスの少女ハイジ』NHK出版、2019

文責:赤松かおり
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赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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