かきくけコラム :「おばあちゃんZの言葉」07

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

姫路の言葉が好きな、あさのは商店店主・篠原玲子による「おばあちゃんZの言葉」の7回目です。

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01の言葉 何しよってん ゆーて ゆーたらな
02の言葉 行っきょっての人
03の言葉 姑さんがな、握っとったったら
04の言葉 チラシもええで、あんた
05の言葉 貴女のお店にはそれは必要に思います
06の言葉 あんたにとちゃうがな、マサヱさんにあげたんや

Zの言葉06

きれいもん見なあかんだっせ

Zは『銀花』(文化出版社)という雑誌を定期購読していました。銀花は、器や織物、版画、工芸など、日本や外国のさまざまな美しいものが特集されている季刊誌でしたが、2010年に休刊になりました。

Zは銀花を、ぱらぱら読んだらすぐにうちにまわしてくれました。読まへんのやったら買わんでええのにと思っていましたが、母や姉や私が「きれいなもの」や「いいもの」を見るように、と、うちにまわすために購読してくれているのがわかりました。「きれいもん見なあかんだっせ」などとよく言っていたように思います。

Z : きれいもん見なあかんだっせ

私も、もらった銀花を熱心に読んでいたわけではなく、それこそ、たまにぱらぱらと見ていただけです。しかし、銀花のおかげで存在を知ったり、興味を持ったりしてものも多いと感じます。いま、このコラムを書くために、本棚から適当に2冊抜き取って来ました。銀花を開くのはひさしぶりです。

1冊目の特集は「こどもの世界」(2002年春、第129号)で、表紙に、赤ちゃんの産着の文様には麻の葉文様が最も好まれた、ということが書かれていて驚きました。私が肌ざわりのいい衣類などを扱っている「あさのは商店」の店名の由来はまさにこれですが、もしかしたら、銀花で知ったことが最初だったかもしれません。

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本棚から適当に取った2冊目の特集は「ルーシー・リー百年の光跡」(2002年夏、第130号)。去年、姫路の美術館で「ルーシー・リー展」があり、ずいぶん話題になりにぎわいました。私は、特に器が好きなわけでもなく、「なんか見たことあるけど、誰やっけ」という程度で見に行きました。器の色の美しさ、薄さ、日本人の感覚に近いことなどに驚いたのですが、これもまた、もしかすると、「なんか見たことある」のは銀花の刷り込みだったかもしれません。(私がよく知らないだけで、たいへん有名な人のようなので、それ以降のなにかで知った可能性も高いですが。)

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他にも、たとえば、韓国のポジャギやベトナムなどの民族衣装や刺繍、日本の刺し子や型染め、活版印刷の手触り(活版印刷で刷られているエッセーのページがあった)など、「いま考えると、知ったのは銀花が最初だったかもしれない」と思うものが、多々あります。

誌面でぱらぱらと見るのは、「ほー、こんなものがあるのか」と思う体験にすぎないかもしれません。しかし、その後の生活の中で、博物館や美術館で展示されていたり、デパートや民芸品店で売られていたり、旅先などで実際に生きて使われていたりして、実物に出会えるチャンスに遭遇しかかったときには、いつかの銀花の記憶がピピっとつながって、きれいなものやおもしろいものを逃さずに、見たり触れたりできるように思うのです。そして、そこからまた、新しい興味につながっていきます。

「おばあちゃんZの言葉」は今回でいったん終わります

さて、7ヵ月にわたって読んでいただいた、「おばあちゃんZの言葉」は今回でいったんおしまいにさせていただきます。理由は「ネタ切れ」。学生時代に収録した会話データを再分析して、言語学的な側面とそれ以外の側面の両方からなにか書けたら、と思って始めたのですが、その「両方」というのがなかなか難しく、息切れしてしまいました。

言語学的におもしろい!という部分があっても、公にできないほど個人的な内容だったり差別的な発言だったり、また逆に内容がおもしろくても言語学的な話はあまりおもしろくなかったりして、苦労しました。ちなみに、今回の「きれいもん見なあかんだっせ」の「きれいもん」の部分は、形容動詞「きれい」が、本来の「きれいなもん」ではなく、形容詞のように使われています。

Zは89歳になり、年相応に心配な部分がだんだんと増えてきていますが、ぼちぼちと元気です。相変わらず、貼り絵のはがきを大量生産し、送ってきてくれます。たまに訪ねて話をし、ネタが貯まったら、またいつか再開できればと思います。

「読んでます!」と声をかけていただいたり、感想をうかがったり、Zのはがきを買っていただいたり、楽しく張り合いのある7ヵ月でした。また、Zとのやりとりを改めて思い出すことができ、貴重な時間になりました。ありがとうございました。

文:篠原玲子(あさのは商店)
http://www.asanoha.net/

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肌にやさしい日用品 あさのは商店

※別の方による「ことば」についての新しいコラムが1ヵ月後から始まる予定です。お楽しみに!

あさのは商店

あさのは商店

姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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