山陽電車荒井駅から徒歩数分。
築80年ほど、昔ながらの長屋が連なる場所があります。
その一角に1988年を最後に住む人もなく、時が止まった場所がありました。
4軒が連なり1つの建物の中で、壁を共有し建てられている長屋であるため、一部だけを取り壊したりすることもできません。
雨風にさらされ、誰の手も加わらないまま放置され、ゆっくりとゆっくりと朽ちてやがて廃墟となっていきました。
次の利用者はなかなか見つかりません。
そんな荒井の廃墟はある日、”CRAZYな事で世界を笑顔にしたい”と活動していたデザイン創造事務所『CRAZY DESIGN』代表を務める高橋さんの目にとまります。
「駅がこんなに近いのにとてもわかりにくい… 最高じゃないか!」
廃墟をどのように利用するか
今にも崩れてしまいそうな物件を使うこととなったら、多くの人がどうやってリノベーションして、綺麗に、使い勝手よくするかと考えるかと思います。
高橋さんも当初は、この廃墟をいかにリノベーションするかに頭を悩ませました。
廃墟も立派にリノベーションすれば、オシャレな古民家カフェにすることができそうです。
でも…
時間がつくりだしたこの空間は現代のアート。
雨漏りによって朽ちた畳も天井も、崩れた基礎もつくろうとしてつくれるものではありません。
新しく便利なものを足していく「足し算」の空間ではなく、今あるものを活かし余計なものは足さない。
廃墟をそのまま”保存”する。
足し算ではなく、引き算の美学、デザイン。
友人でもあり、荒井の廃墟創設メンバーでもあるデザイン学博士中村さんとともに、最終的にこの境地へとたどり着きました。
廃墟は廃墟らしく!
『廃墟に見合ったクレイジーな案件であること』を条件に、テナントの募集をはじめたところ、神戸でバーを経営する方の2号店としての利用が決定しました。
バーとして運営するならば保健所の飲食業の許可が必要です。
基準をクリアする必要がありました。
お客さんが出入りする場所で、怪我をさせるわけにもいきません。
当初一部の天井は雨漏りから板が剥がれ、その下の畳は雨水によって朽ちていました。
通常ならば天井は綺麗になおし、畳は新しいものと取り替えるかと思いますが、荒井廃墟ではこの状況も”保存”されています!
“保存”には 15mm厚 というとても分厚い透明のアクリル板を使用。
荒井駅の近くに、プラスチック加工を行うTakumiArmory-タクミアーマリーさんがあり、通常では難しい分厚いアクリル板のカットなどもしていただけることに。
透明のアクリル板ならば、光を通し、覆っても隠れてしまうことがありません。
そして15mmと厚さも十分なため、上を歩くこともできます。
耐久性もクリアすることができました。
雨漏りは補修してありますが、剥がれた天井は”保存”されています。
朽ちた畳はそのままにし、15mm厚のアクリル板を敷き詰め、朽ちた様子が観察できるように、そして安全性にも問題ないように”保存”されています。
台所、風呂、トイレは当時のままをできるだけ”保存”し、展示室のような空間に。
台所の基礎は一部崩れていましたが、”保存”するため、崩れた状態を写真で撮影し、一度解体してアクリル板で補修した後に、撮影した写真を元に一枚一枚板を元に戻し、崩れた状態を復元しています。
荒井廃墟1988 誕生
オーナーの高橋さんいわく、世には「廃墟」と呼ばれる場所でカフェやレストランなどを営業している店舗が全国に何箇所かあるそうです。
大きくわけてタイプは3つ。
①廃材やデザインなどで、廃墟っぽくしたもの
②手を加えず営業しているうちに荒れていき、廃墟と呼ばれているもの
③廃墟だったものをそのまま”保存”し利用しているもの(保存リノベーション)
荒井廃墟1988は③に該当しますが、③に該当する店舗は荒井廃墟1988のみとのことです(2015年リサーチ時)。
数々の問題を斬新なアイデアでクリアし、きちんと営業許可も得て2016年11月、「荒井廃墟1988」がOPENしました。