毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、12回目は陽文庫みずいけさんです。
12のブック
「なぜ、この人と話をすると楽になるのか」吉田尚記
発売日: 2015年
著者: 吉田尚記
出版社: 太田出版
サイズ: 単行本
ISBN: 978-4778314330
コミュニケーションの目的はコミュニケーション
「『コミュ障』とは『コミュニケーション障害』の略である。日本の国民病のひとつで、他人との他愛もない雑談が非常に苦痛、あるいはとても苦手な人のこと。」
「コミュ障にできないのは、あくまで休み時間などにおける友人や知人との、どうでもいいけれどじつに楽しげな会話である」
(P.32)
コミュニケーションがうまいと思っている人は6.2%。
会社や学校、友達同士の中でも、
「うまく話せてるかな」「気分を害してないかな」「自分はこの場所にいてもいいのかな」など、ほとんどの人が話すことに不安を感じたことがあると思います。
知らない人にいきなり話しかけるのも変ですが、よく知ってる人、知り合いの人にニコニコ話しかけないのもおかしい!働いてたら、初対面でも淀みなくニコニコ話さないといけないし、関係を壊してもいけない。うまく話せるのならもっと話したいし、うまく話せないのなら逆にもう何も話さない方が良いのでは…といろいろ考えてしまったり。いくつになっても、何か社会と接点を持とうとする限り、コミュニケーションの必要性に迫られます。
さらには今の社会ではコミュニケーションが上手(世渡り上手?)な人の方が、評価を高くしそうな感じもあり…悩みは尽きません。
吉田さんはこういいます。
「すべての前向きな努力、すべての欲というのは、実のあるコミュニケーションがとりたいってところに行き着くんじゃないでしょうか。
〜略〜
コミュニケーションが成立して、そこで感心したり共感したり、笑い合ったり幸せな気持ちになったり、そういうポジティヴな感覚を得ることなしに人は楽になれません。」
(P.12)
コミュニケーションを扱うほとんどのビジネス本は、相手を都合よく動かすのが目的だったり、コミュニケーションをまるで通過点のように扱ってしまっている。
戦略的に用いれば、出世もお金儲けもプレゼンだってうまくいくかもしれないが、コミュニケーションそのものをより深く楽しむために、コミュニケーションのスキルを磨くべきではないか。
そしてコミュニケーションというのは、実は、コミュニケーションが成立すること自体が目的であって、そのときに伝達される情報は二の次、つまりコミュニケーションの目的はコミュニケーションだと。
さらには、議論や論戦ではなく、非戦のコミュニケーションを推奨する吉田さんは、最終的により優れたコミュニケーターになれるのは、人見知りでうまくしゃべることができない人だとも言っています。
コミュニケーションのリテラシーと技術
吉田さんは深いところから問題を掘り出してくれ、課題解決に向けて、コミュニケーションのリテラシーと技術について提案をしてくれています。
●時系列に沿って相手の空白部分を埋める
●テンションを合わせる
●相手のためにしゃべる
●その人がわかるような質問をする
●相手に興味を持って素直に質問する
→ときに核心を突いてミラクルを呼び起こす
●会話で優位に立とうとしない
→人は、自分より優位に立っている人間に対してあまりものを言いたくならない
●相手に相談する
→どうやっても自分が優位に立つことはないし、みんながほぼ経験していること相手に訊く
●相手の言い分に乗ってみる
●相手の言うことを否定しない
●自分にとってマイナスだなって思うことが、相手の迷惑になるとは限らないと思っておく
●自分を許す
●自分は嫌われてないと思おう
●自分のことよりも相手を思いやりながら喋ることが大切で、自分を高くも低くも見積らないようにする。
●最後はギャンブル
いろんなテクニックはあるのですが、吉田さんは結局のところ、コミュニケーションを過度に考えなくてもいいよって言ってくれているのかもしれません(吉田さんはめちゃくちゃ分析してますが)。
タモリさんの「髪切った?」
あの日本一有名な質問、タモリさんの「髪切った?」は神の一手と言うべき質問だと、吉田さんは言います。
この質問は
①変化に気づく
②他愛がない
③返答のリカバリーが利く
④関心を抱いているサインになる
⑤髪を切ったことは覚えている
という5つの項目をカバーしていて、
「あ、この人の視界に自分は入ってるんだ」と思うことができ、相手に興味があることへのささやかな表明につながる。ささやかで何気無い質問なんだけれど、その何気無いとこがすごいのだ!と。
世間にはタモリ論がたくさん出てますが、コミュニケーションの良い壁になるというか、無になれるところがタモリさんは凄いと言います。
ガンバレ、私のなかの勇気
僕は流れがない中というか、意味があるのかないのかよくわからない話は苦手で、意味がありそうなこと(自分にとって)は話したいし、聞きたいし、関わりたいといった感じです。
こう考えるとまた難しくて、自分はいいけど、興味のあることにしか興味ありません!と言っているような感じもあり…。難しいですね。
双方向のコミュニケーションはできてないのかもしれません。
本のタイトルである、話をすると楽になる人というのは、自分を許すことができた人。いろんなテクニックを挙げてきましたが、良いコミュニケーションへの手順は実は全て、自分を許すためにあったのではないかと吉田さんは言います。
話し方の本ではビジネス書のような本が多いですが、この本を読んでいると
著者の吉田さんと会話できているような感覚を覚えます(まさにそれがコミュニケーションというのかもしれません)。
それは吉田さんが元コミュ障で、自分の自己顕示欲をなくすことから始め、ひとつひとつ状況を嚙み砕きながら、あらゆる手順を踏んで、コミュ障を克服していっているところに共感を覚えるからかもしれません。
本文の中で「ガンバレ、私のなかの勇気」という表記がありますが、弱さを責めることなく応援してくれるような、ありきたりな表現ですが、コミュニケーションで悩んだときにそっと背中を押してくれるような本です。
おわり
文:みずいけあきら(陽文庫)
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