毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、30回目は陽文庫みずいけさんです。
30のブック
「どもる体」伊藤亜紗
発売: 2018/06
著者: 伊藤亜紗
出版社: 医学書院
サイズ: A5
ページ数: 264ページ
ISBN: 978-4-260-03636-8
楽に話せば連発だ。意思を通せば難発だ。言い換えすれば自分じゃない。
リズムに乗れば乗っ取られる。とにかくしゃべりは窮屈だ。
~しゃべれるほうが変。~
(帯より)
<著者紹介>
東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。専門は美学、現代アート。
主な著作に『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)など。趣味はテープ起こし。
めくるめく伊藤亜紗ワールド!
美術家の高嶺格さん
「吃音というのは、言葉を伝えようとして、間違って、言葉じゃなく肉体が伝わってしまった、という状態なんです。」
(P.71)
話すときに、「ここここ…こんにちは」など言葉が出にくかったり、次の語の発音をするのにスムーズに移行しにくかったりする、吃音という事柄について書かれた本です。
元々讀賣新聞の日曜日の書評欄で美学者の伊藤亜紗さんという方を知っていたのですが、たまたま書店で気になるタイトル&装丁だなと思ったら、気になっていた伊藤亜紗さんが書かれた本だったので購入してみました。
美学者という肩書きだったので、吃音や身体障害者の方についての著作があるのは意外な感じがしましたが、読み進めていくとその理由が少しわかった気がしました。
本書では吃音を身体論的に捉えています。身体論として捉えるということにも驚きましたが、丁寧にわかりやすく(ホントに丁寧!)書かれていて、テーマは難しいですが読みやすいです。
吃音…といっても私には関係ない、何のこと?と思われる方もてくてく読者の方にも多いかもしれません。類似性がありそうな事柄としては、「輪読(学生時代の国語の時間の本読みなど)のときにやたらに緊張する」「交差点で右折するときに右折待ち車両の先頭にいると緊張する」とかも少し近いのかなぁと思ったりもします。あとは「このシチュエーションでは出来るだけこの言葉を明るく朗らかに言わなければいけない!」という場面に遭遇するとちょっと緊張するとか。
つまり何というか、「このような場面では大方の人はこうするのが普通だと認識されるような場面」にでくわすと、「できるだろうか…」などと過剰に意識してしまい、ちょっとドキドキしてしまうというか。
もちろん深く考えずに、ススーと何気なく出来てしまい、通り過ぎてしまう人が大半だと思いますが、特定の場面でちょっとつまずいたことがある人や苦手意識がある人は、同じような場面が近づきそうになると心臓が喉元に上がってくる感じになるんじゃないかなぁと。
本書の中に、「たたたたたまご」など最初の音を繰り返してしまう「連発」に関してこんな記述があります。
たしかに連発は、「言葉の代わりに体が伝わってしまう」わけですから、言語に対しては破壊的です。言葉による意味の伝達を脱臼させ、むき出しの体の状態を相手に伝えてしまいます。けれども、だからこそそれは「社会的なお約束」を超えて、メッセージを直接的に伝えるような力を持つことがあります。
もちろん、そのような力が人間のコミュニケーションにとって常に必要なわけではないし、実際には単なるノイズになることのほうがはるかに多いでしょう。けれども言葉を操る意識を押し流してしまうほどの興奮の塊を目の前にすると、私たちはとてつもない魅力を感じることがあります。
武満徹が吃音に見出したのも、そのような魅力でしょう。「職業化された話し方のそらぞらしさ」とは違う、「体と結びついた強さ」が吃音にはあると武満は言います。「どもりは行動によって充足する。その表現は、絶えず全身的になされる。少しも観念に堕することがない。」(P.83)
(注 武満徹…現代音楽家)
吃音というと社会生活を送る上で、誰にとってもマイナスな事として捉えてしまいそうですが、本書を読んでいると、必ずしもそうではないかもしれないと思えてきます。
料理家・文筆家の高山なおみさんも吃音の取材対象者として本書に登場しますし、あとがきには伊藤亜紗さん自身の吃音の体験についても触れられています。
ちょっと触れにくく重そうなテーマですが、吃音ということにいろんな角度からアプローチしていて、単純に読みものとして面白いです。
何より吃音の問題に明るく朗らかに(外から見ているとですが…)向かい合っている伊藤さんの存在が、読者に安心感を与えてくれているように思えます。
応援していますというのも何だかおこがましくヘンな感じがしますが、伊藤亜紗さん応援しています!
と、この医学書院の『ケアをひらく』というシリーズには、他にも『死と身体』(内田樹)、『べてるの家の[当事者研究]』(浦河べてるの家)、『ALS 不動の身体と息する機械』(立岩真也)など、とても興味深いラインナップが並んでいます。
僕がここに書いた『どもる体』の内容はほんの触りの触りです。まだまだ面白い話がいっぱい散りばめられていますので、機会があれば手にとってみてください。
おわり
文:みずいけあきら(陽文庫)
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