毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、61回目はトキシラズ山本さんです。
61のブック
『大きな鳥にさらわれないよう』川上弘美 講談社文庫
『大きな鳥にさらわれないよう』
発売日: 2019/10/16
著者: 川上弘美 著
出版社: 講談社
ページ数: 413ページ
サイズ: 文庫
ISBN: 978-4065174463
遠い未来を描いた一風変わった連作短編集です。一つの物語を読んだだけでは世界がどうなっているのか、はっきりとは見えてこないのですがら三つ四つと読んでいくうちに、物語同士がディティールを補完し合い、だんだんと小説中の人類の状態がわかってきます。まるで、深い霧が部分的に晴れていくような読書体験をあじわえるのですが、ある意味すごく不鮮明な物語です。
で、どうやら人類は衰退して、地域によってばらばらなテクノロジーや習慣にしたがって生活している、ということが見えてきます。
『緑の庭』という作品では、男性が極端に少ない地域が描かれていて、その中では男が女性だけの村々を移動しながらシステマチックに生殖を行います。当然、恋愛感情というものは薄れているわけですが、それでも愛情が生まれてしまう。という話なのですが、愛情を持つことがちょっとした退化のように思える描き方になっているところが素晴らしいです。
逆に『みずうみ』という作品の中では、人々は自由に恋愛をし、森の中で魚や鳥を取り、のびのびと暮らしています。憎しみという感情を忘れてしまうほどの平和が実現した地域なのですが、名前が数字で表されていて「30の19」や「15の8」になっています。(ちなみに、めっちゃ読みにくいです)
読んでいると、未来の地球のさまざまな地を旅している気分になります。しかし、これは人類がばらばらに暮らしているからこその状態で、昨今のグローバル化やナショナリズムの風潮と真逆なのかなぁと思います。拡散と増加を続けた今の人類が、やがて衰退し、分離して、独自性を発展させることで、生き残っていく道を探る。遠い未来までの人類の旅を見るような、大きい小説です。
文:山本岳史(トキシラズ)
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