かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」66

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、66回目はトキシラズ山本さんです。

66のブック

『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』 北村紗衣 ちくま新書

『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』
発売日 : 2021/9/9
著者 : 北村 紗衣(きたむら・さえ)
出版社 : 筑摩書房 (2021/9/9)
ページ数 : 240ページ
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4480074256

こうやって本の紹介をするのも、もはや何回目になるのかわかりませんが、文章を書く勉強や、書評の勉強をしたという訳ではありません。

気分は無免許運転です。
いつ捕まるのかヒヤヒヤです。

という訳で今日の一冊は最近になってやっと読んだ、書評の書き方の本です。

「書評する気ないから関係なーい」と思ったそこのあなた、ちょっとだけ待って欲しい。
あなたは最近どんな小説を読みましたか?
マンガは?映画は?Netflixのオリジナルドラマは?音楽はどうでしょう?どれにも触れていないということはないんではないでしょうか?

そう、今は以前に比べて、あらゆるコンテンツが開かれ、安価で大量に氾濫しています。
昼ご飯を食べるか、マンガを買うか、それが問題だった過去の私に教えてあげたいカルチャー大洪水時代です。

ただし、これだけ大量だと、ただ流されてなんとなく消費して、なんか面白かった、なんかつまんなかった、と薄味な感想で終わってしまいがち。
それはなんとも勿体ない!大洪水の波を乗りこなし、なんとなくじゃなく作品を面白がる切り口、それが本書で提示される批評なのです。

批評の仕方はたったの3ステップ、しっかり読んで(見て・聞いて)、分析して、書く。
それだけです。

書く気がなければ2ステップです。
“男は、ケーキに手をつけないまま、席を立った”
という例文について考えてみます。

なんてこと無いアクションの描写ですが、しっかり読むのであれば、なぜケーキに手をつけなかったのか、急いでいたのか、それとも食べる気がなかったのか、ケーキじゃなくてトーストやラーメンじゃダメだったのか、と考えます。
どちらでも良いようにも思えますが、およそまともな作者であれば、そこにケーキを配置するだけの理由があり、それを読み解いてくれるのを読者に期待しているものです。

次に分析です。
まず他人の意見を探してみましょう、有名な評論家があなたが論じたい作品について言及していれば、しめたものです。
そのまま引用したのではパクリですが、そこにあなたのエッセンスを加えればオッケーだそうです(これを巨人の肩の上に立つと書かれています)
あとは相関図を書いてみたり、タイムラインを起こしてみたり、作品を俯瞰してみましょう。

そして、俯瞰をさらに広く取って、同じ作家の別の作品や関連作品もチェックします。
先のケーキの例でいうと、その作家は他の作品で、ケーキを食べる人間=善人、というキャラクターを多用していたということが見えてきたとします。

そして、作品内の相関図を考えると、ケーキを食べれなかった=善人になれなかった、という作者からのメッセージに気がつくかも知れません。
展開次第では、ケーキを食べなかった=善人になる気などない、というメッセージになるかも知れません。

いずれにしても、キャラクターを補強する重要なアイテムとしてのケーキが浮かび上がってきます。
この発見こそが、批評的に読むことの宝なのではないかと思います。
それは、作家とあなたの間に一つの関係性が結ばれたことになるのですから、例え誰に知られなくてもです。

この本のなかで提示されている読み方や分析は、決して楽なものではないかも知れません。
時間もかかるでしょう。

しかし、何となくで読んだり見たり聞いたりしてきたものに引っかかり、作品を立体的に感じる事ができるのであれば、こんなに幸福な体験はないのではないでしょうか。
本書の中にはそのコツが、わかり易く、たくさんしまわれています。ぜひこの本を片手にコンテンツの洪水の中で遊びましょう!

文:山本岳史(トキシラズ)
ブログ ブックカフェ・トキシラズ

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2011の震災で東京→姫路に自主避難。姫路生活も長くなってきたが、まだまだ知らないことばかりで情報収集中。美味しいものを食べることが大好き。でも震災後は安全であることも大事に。偏愛主義者。WEBや印刷物の制作をお手伝いする「OTETEお手伝い」を運営中。

好き:カレー(スパイス料理)、パクチー、アート、音楽、手作りすること

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