毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、67回目は陽文庫みずいけさんです。
67のブック
『人にはどれだけの物が必要か』鈴木孝夫 飛鳥新社
『人にはどれだけの物が必要か』
発売日 : 1994/10/1
著者 : 鈴木 孝夫
出版社 : 飛鳥新社 (1994/10/1)
単行本 : 217ページ
ISBN-10 : 4870311917
ISBN-13 : 978-4870311916
出来るだけ物を買わず、捨てず、そして拾い、手をかけて直すという生き方には、良いことがいくつもある。第一に、いま国中の自治体を悩ませているゴミを殆ど出さずに済む。次に物を買わないと、お金が余り要らなくなる。したがって余分なお金を得るために、無理してまでも働くなくてよい。その結果自分が本当にしたいことをする時間が沢山生まれる。
P13
言語学者の鈴木孝夫氏のモットーは「買わずに拾う、捨てずに直す」。
愛犬の散歩がてらに空缶を拾い、ゴミ捨て場では家電を物色する。徹底した倹約・リサイクルで資源の有効利用に励む生活は、一人の人間が出来る最高ランクのエコロジーライフ。
「最小の物資・エネルギー消費で、最大の幸福をつかもう」と新しい?生活を提案する。
氏は、手紙類、レシート、紙ひもに至るまで、紙という紙は必ず再利用ルートにのせる。あまりにひどい汚れの紙は、庭にある小型の焼却器で燃やして、その灰を草花や植木の肥料にする。
家を出るときは、丈夫な紙かビニールの袋を持っていき、余分な包装紙はもらわない。
道端にある新聞雑誌も(2022年の現代はあまり落ちてなさそうだが)、愛犬の散歩の途中に拾い、リサイクルの流れにのせる。
会社や組織として取り組んでいるわけではないが、こんなゲリラのような実践の仕方も、私は好きだ。
誰かに見せるためでもなく、お洒落でもない、氏が拾ってきた一見ガラクタのようなモノだらけの倉庫の写真も、私の興味をそそる(自転車が何台も!)。その中央で、パイプ煙草を咥えて佇む、氏のドヤ顔(恍惚といっても差し支えない)もなんだかまぶしい。
そして、この本が著されたのは何と約30年前!
数十年も前からこのような生活スタイルだというのに脱帽する。
大学教授で潤沢にお金もあるはずなのに、こういう暮らしをする。
『ことばと文化(岩波新書)』で有名な鈴木氏の、違う一面が見れるのも面白いが、氏は政治や経済、果ては、勤める慶應義塾大学の敷地内の大銀杏の伐採についても物申していく。
小うるさいオッサンといってしまえばそれまでだが、ユーモアを交えながら小言のようなことを言い続ける姿勢も、また面白い。
氏もリサイクル活動を始めた当初は、新聞・雑誌を集めて売り、小遣い稼ぎをしていると疑われないだろうかと危惧したり、廃品拾いをしていて欲しいものが見つかったときでも、あたりに人が多いときは一旦は興味がないふりをして、夜に再び取りに行ったりしていたという。
かくいう私も、ゴミ捨て場にピエールカルダンのグラスなどを見つけたら、持ち帰っていた過去がある。
先日あった地域の粗大ゴミ当番の日も、門番としてゴミの前に立っていたとき、内心結構ウズウズウズウズしていた。
ゴミを整頓するふりをして、ちょっと奥の方を見てみたり、籐(とう)でできた棚を発見したときは持ち帰りたくなったが、気持ちを押さえつけ、任務を果たした。
普通、道端にあるゴミとかは拾わない(僕も拾わない…)だろうし、今でも大企業などは、スポットライトが当たった、見える形のSDGs的なことしかやりたがらないだろうなと思う。
また、こんな本格的すぎる人を見かけたら、大多数の人は「あの人は変人」とか言うだろうなとも思う。
確かに父親がこんな風だと、家人はいささか困りそうだが、昨今、叫ばれているオシャレSDGsとはちょっと気合いの入り方が違う。
簡単に「豊か」という言葉を使うのはどうかと思うが、氏の精神生活(最新のものはないかもしれないが、モノはたくさんあったので物質的にも豊かだったと思う)は、真に豊かだったと思う。
本は古いですが、今、読んでも色褪せない。むしろ、SDGsが流行りだした今だからこそ、読む価値がありそうな本です。
氏は昨年に94歳で亡くなられましたが、今になって時代が追い付いて来たぜ!と、天国から言っているような気もします。
粗大ゴミを見てトキメクようになりたい貴方にお勧めの一冊です。
おわり
*注* ごみ集積所のごみを持ち帰るのは基本的にはNGのはずなので、良い子は真似をしないでくださいね!
文:みずいけあきら(陽文庫)
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