不定期で、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという播磨出身のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。
第54の発見:ちょっと不思議なお話が読みたい人へ『ドクロ』(2024)
10月はハロウィンということで、ちょっと怖くて不思議なお話をご紹介します。
<あらすじ>
ある夜、森の中を逃げてきた少女オティラは、古い屋敷で礼儀正しい「ドクロ」と出会う。やがて二人は奇妙な友情で結ばれていく。
<心に響く言葉>
温室に入っていった。
「わあ、この部屋好き」とオティラは言った。
「わたしもいちばん気に入ってる」とドクロは言った。
「梨、たべられるの?」とオティラは訊いた。
「床に落ちたのは食べられるけど、枝に生っているおいしいのには届かない」
「ひとつ取ってあげる」
オティラが梨を差し出すと、ドクロはひとくち噛んだ。
噛んだ梨がドクロを通り抜けて床に落ちた。
「ああ、おいしい」とドクロは言った。
「ありがとう」―『ドクロ』p30、ジョン・クラッセン 2024、スイッチ・パブリッシング
アラスカの民話を作り替えたお話を、ダークなタッチで描いた絵本です。
少女オティラが何から逃げて来たのかも、ドクロがなぜしゃべるのかも何もかもが謎で、最後まで明かされない奇妙なお話なのですが、語りたくない秘密を抱えた者同士が出来る限りの優しさを分け合う姿に温かみを感じます。
オティラの無口で目の座った感じも怖いし、冷静に破壊行為をするのも不気味なのですが、
黒が印象的な色づかいのなかに、雪景色や、淡いオレンジ色の陽が差し込む温室のシーンなど絵が美しくて、不思議と後味が悪くはありません。礼儀正しいドクロも妙に可愛く思えてきます。
明るい話が好きな人も、たまにはほの暗い物語を読みたい時があるのではないでしょうか。
ハロウィンがある10月の夜におすすめしたい絵本です。
文責:赤松かおり
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