かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」16

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

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「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、16回目は陽文庫みずいけさんです。

16のブック

「出会いの不思議」河合隼雄

発売日: 2002年
著者: 河合隼雄
出版社: 創元社
サイズ: 単行本
ページ数: 331ページ
ISBN: 978-4422112763

 

臨床心理学の大御所、河合隼雄先生のエッセイ集。

出会いの不思議というタイトルの通り、これまで出会った人々との邂逅を綴っていたり、いろんなテーマについて軽妙に語っています。

全編通して読むのももちろん面白いですが、僕が気になったのはp.52からの2ぺージ。あるベテランの臨床心理士に、クライエント(患者)と接する際に気をつけていることを聞いた話で、「あいまいを誠実に」という見出しではじまる章です。

ここで、幻覚や妄想があるかを知ろうと、こちらの質問が厳しくなり、答えを明確にさせると、弱い相手なら、質問する人の期待に応えてそれを肯定するようなことが生じる。実は、クライエントの経験していることは、きわめてつかまえどころのない不安や恐怖であり、簡単には言語化できないのだ。

そのような「あいまいさ」に対して、こちらも「あいまいを誠実に」生きる姿勢をもつとき、不思議な共鳴が生じ、ゆっくりしたペースで治癒への道がひらかれる。この事例もそのようにして将来の展望が徐々に見えてきたのだ。

ここにあげたような例だけでなく、人間世界の多くのことに対して、「あいまいを誠実に」生きるのが望ましい結果につながっていくと思われる。そうでありながら、現代人は何でも明確にすることが解決への前提条件と確信し、せっかちに明確化することで解決の可能性を壊しているように思う。
(p.52)

読んでそのままですが、あいまいを誠実に、というのはなかなか出来ることではないなと感じました。

人を見るときに
「この人の年齢は」
「結婚しているかどうか」
「仕事は何をしているか」
などなど。

自分からもいろんな質問を他人に浴びせますし、いろんなことを人からも聞きますが、言葉を与えられたからといって、その人の属性を全て表しているわけではないなぁとよく思います。

「あの人は学校の先生です」
「あの人は定年退職された元○○の人です」など。

自分の中でもその人を表すのに一番適したような言葉を探すし、また誰かに説明するときも、相手が理解できそうな言葉と、自分の知っている語彙の中で言葉を探す。

言語化できないとすごくもどかしいし、近い言葉を使ってもなんだか漏れ落ちている部分もいっぱいありそうで…

感覚やイメージとしてその人の中に元々ないものを、言葉で表現して正確に伝えるのは難しいなと思います。

だからこその「あいまいを誠実に」!?

他人や自分の中にある、まだハッキリとはイメージできてないもの、まだ外に出すには早いものなども、早急に自分の中で評価や糾弾などせずに、大事にとっておくこと。しばらくその気持ちを寝かしておいて、その気持ちがなんなのか浮かび上がってくるまで熟成されるのを待つ。

「おそらく、彼らはあまり話さないだろう。それは隠しているのでもないし、感じていないのでもない。それは言葉にならないのだ。」(p.209)のように「言語化できないもの」も無理矢理言語化してわかったような気持ちに安易にならないこと。そういう態度は自分にとっても、他人に対する態度においても大事なのかなぁと思いました。

「あいまいを誠実に」以外の章も、「逸脱行動の意味するもの」「言葉が熟すのを待つ」など、興味深いテーマが揃います。

安易に判断してしまいがちなものを、いったん立ち止まって考えるきっかけになるような一冊です。

おわり

文:みずいけあきら(陽文庫)
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姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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