かきくけコラム :「大人にも響く子どもの本 」18


毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。

第18の発見 数学アレルギーの人へ:『無限の中心で』(2020)

8月にご紹介するのは、高2で数Ⅱが17点だった作者による、数学アレルギーだった人に読んでほしいヤングアダルトノベルです。

<あらすじ>
高2のとわはド文系女子。新聞部の手伝いで数学研究部へ取材に行くと、部員たちが「木曜日のミステリー」に悩んでいました。
それは部室に置き忘れた数学の難問が、いつも木曜日に何者かによって解かれているという怪事件。
深まる謎。犯人は一体誰!?

<心に響く言葉>

「そうです。数式は万国共通です。仮に言葉が通じなくても、数式を介せば会話ができるのです」
「音楽みたいですね。音楽は国境を越えます」
「相撲も見ればわかるっす」
「絵画もですよね」
響と章と美織が言うのに、関口教授は微笑んでうなづいた。
「そうですね。そんな感じです。私たちは同じ数式を見て美しいと感じ、感動を分かちあうことができましたから、言葉なんかいらなかったのです」
「数式が美しい」とわは、ついつぶやいた。
―――P217『無限の中心で』まはら三桃 講談社 2020

数学研究部のメンバーにいるのは、

数学オリンピックをめざす、イケメンだけどファッションが独特な部員。
数式を音楽で表現するピアノ専攻の部員。
相撲部と掛け持ちで数学をやたらと相撲の取り組みに例える部員。
セクシー美女の顧問の先生。

数学「推し」のオタクたちが数学への愛を語るのを読んでいると、数学が苦手であっても不思議と楽しくなってしまいます。
数学を熱く議論しあう部員たちに圧倒され、文学好きなとわも数研をネタに物語を書き始めます。

そしてネタバレになりますが、「木曜日のミステリー」の犯人、とわのいとこで、家族やクラスでうまくやれず保健室登校していた澗。

彼もまた大好きな数学に助けられます。

つらいことがあっても、「推し」と仲間たちの存在に救われる。何かはまっているものがある人の共感を呼ぶこと間違いなしの青春小説です。

何千年も昔からたくさんの人が数学の問題を解き続けているなんて、ロマンを感じます。

だからといって学習教材みたいな小説ではなく、友情や挫折や成長の要素もたっぷりで、大人が読んでもこんな爽やかな青春を送ってみたかったと思ってしまいます。

私も二次関数、三角関数、ベクトル…。数学が大の苦手でした。
この本に学生時代出会っていたら、
数式が美しいとまでは思えなくても、数学を嫌いにならずにすんだかもしれません。

文責:赤松かおり
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赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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