毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、14回目は陽文庫みずいけさんです。
14のブック
「穂村弘の、こんなところで。」穂村弘
発売日: 2016年
著者: 穂村弘
写真: 荒木経惟
出版社: KADOKAWA
サイズ: 単行本
ISBN: 978-4046014320
現代を代表するような詩人である穂村弘さんの、資生堂「花椿」誌で対談されていたものをまとめた本です。対談する相手は、西加奈子、松任谷由実、平松洋子、川上未映子、蒼井優、瑛太、松田青子、皆川明…などなど。俳優や作家、映画監督、翻訳家、お笑い芸人に至るまでいろんな人と対談しています。
感じたのは、全員に普通の部分がある、ということだった。どんなに、きらきらして見えても、それはその人の中の突出した一部分なのだ。
でも、その他の目に見えない大部分は、普通の要素でできているのだ。彼らの魅力の秘密は、きらきらそのものにではなく、普通からきらきらを抽出してゆく回路にある、と思った。
その回路には個人差があって、誰かのモデルをそっくり真似することはできないようだ。
(p.9)
穂村さんは上のように言っていますが、やはりこの本を読んでいると、対談相手のゲストの方々の感覚や感性が普通ではないのがよくわかります。
特に印象的だった箇所、表現などを挙げてみます。
「男でよかった」(川上未映子さんとの対談)
川上未映子さんとの対談においての、穂村さんは男でよかった理由についての箇所。
川上 なんで男でよかったと思うの?
穂村 頼んでもないのに客体として見られるのが嫌だから。完全に主体的でありたい。美人作家と言われた女性が激怒する感覚は当然だと思う。
川上 イケメン歌人と言われたら?
穂村 それは嬉しいわけ。男であれば客体として見られてもいい。でも自分が女性で実際美人でも、美人と言われて同じ嬉しさはない。女の人って客体と見られる感覚を長い時間をかけて絶望として受容していくんだろうなと思う。男性はそういうきめ細かい絶望を感じない、自分を含めて。
(p.81)
ここの「女の人って客体と見られる感覚を長い時間をかけて絶望として受容」という表現が面白いなぁと。僕には女性が絶望していっていることは全く想像出来なかったです。絶望がほんまかどうかわかりませんが…
「安らぎの国がない」(枡野浩一さんとの対談)
歌人の枡野浩一さんとの対談も面白くて、面白いと思った場所を抜粋してみます。ちなみに枡野さんは漫画家の南Q太さんの元旦那です。
枡野 褒められれば嬉しいって感覚が薄いんですよ。むしろ悪口でも、自分でうまく言葉にできなかったことをずばっと言われると清々しい嬉しさを感じますね。小さい時はみんなそうだと思っていました。
(p.109)穂村 枡野さんには安らぎの国がないよね。ふるさとがない。
(p.113)
安らぎの国がない、ふるさとがない人ってなんか面白いなぁと。一枚ガラスで遮られた世界で生きていて、どこにいても常にひとりぼっちで、人と首尾よく交われない人のようで好感を持ってしまいます。
「アナウンス」
穂村さんも同じく?「硝子に隔てられて、ひとの心から三千里も離れたところにいた」という世界に生きていたようで、別の本で「硝子人間の頃」というタイトルでエッセイを書いていたりします。
硝子人間の穂村さんはこんなことも言っています。
穂村 でも、僕は他者と関わらなくちゃいけないというアナウンスを、子供の頃からずっとされているので。
(p.107)
ここを読んで、他者との関わりを「アナウンス」と表現しているところが面白いなと思いました。半強制というか、情報としては知っていますというような。世間からなんか半歩というか一拍ずつリアクションが遅れていて、後づけで得た知識や情報によって人並みの振る舞いを獲得するような感じというか。このコラムを読んでいる人にも少なからずいそうですね…。
そのちょっとズレた感じは穂村さんにも対談相手のゲストの方にもあって、そのあたりの記述が面白いです。
ピタッと過不足ない言葉
あと対談している途中に、必ずと言っていいほどゲストの方の人となりや特徴を穂村さんが言葉にして言うのですが、それが毎回秀逸で、誰かにこんな風に自分のことを表現されたらドキリとする反面、なんとなく嬉しいだろうな~と思いました。
当てはまる言葉がなくて凡人がモヤモヤするところに、ピタッと過不足ない言葉があてはまるとなんだかスッキリしそうだし。
ゲストの方の個性もわかるし、同時に穂村弘さんの凄さにもまずは触れられるような一冊で、いろんな感覚を言葉にしてくれています。
この本を手に取って、穂村さんを是非知ってほしいです。(あとついでに枡野浩一も!)
おわり
文:みずいけあきら(陽文庫)
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