毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
1年に何度かある「第5週目」の水曜日にだけそっとていねいにつづられる、宮下ひろみさんの本についてのコラム「五週目のほんばこ」の5回目です。
『やましたくんはしゃべらない』 山下賢二作、中田いくみ絵(岩崎書店)
今月ご紹介する絵本は、山下賢二作、中田いくみ絵「やましたくんはしゃべらない」(岩崎書店)です。
数日前にプレゼントでいただいた。
包み紙を開いたら不機嫌そうな男の子の絵に睨まれ、しかも帯には「しゃべってたまるか」と書いてある。気迫を感じる。
ちょっと身構えつつページを開く。語り手は同じクラスの女の子たかはしさん。
1年生の時から6年生の今まで、やましたくんは学校で一言もしゃべらない。でも授業中はふざけてみんなを笑わせるし、合唱コンクールには口パクで参加する。
最後の参観日、やましたくんは作文を発表することになった。
黒板に作文を書き写し、ラジカセで音声を流して読み上げた。クラスの子どもたちは大喜び。
卒業式の日、名前を呼ばれた。初めて声を出して返事した。
周りの誰も気づかなかったけどね‥
出版に際してのインタビューによると(京都新聞デジタル版2018年11月17日)この話は著者の小学生時代の実話で、幼稚園の入園時に自己紹介をするのが恥ずかしかったことをきっかけに、その後9年間、学校では全く口をきかずに筆談などで過ごしたそうだ。
周りの子どもはそのままを受け入れて一緒に過ごすけれど、大人はいろいろと解釈したり、無理に話をさせようとしたらしい。
私が親や教師の立場だったら、子どもが心を開きたいと思う時まで寄り添って、じっと待っていられるだろうか?
あれこれ推測して余計なことを言いそうな気がする。
けれど、受け止めるだけの器を持っておきたい。
かかりつけの小児科の先生がいつも「良いところ、できてるところを見てあげてくださいねー。元気に産まれて育って、それだけで万々歳なんですよー。」と声をかけてくださる。
心配のタネがモヤモヤと浮かんできたら、その言葉を思い返しながら芽を潰すのだ。
絵本のラストは笑顔のやましたくんだ。
こんな子もいるよ、こんな時期もあるよ、といろんな世代の人たちに読んでもらえるといいと思う。
文:宮下ひろみ