かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」65

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、65回目はトキシラズ山本さんです。

65のブック

『ヴィンランド・サガ』幸村誠 講談社

『ヴィンランド・サガ』
発売日: 2006/8/23(1巻)
著者: 幸村誠 著
出版社: 講談社
ページ数: 220ページ(1巻)
サイズ: B6
ISBN: 978-4-06-314423-9(1巻)

このマンガは友人にオススメされて、気にはなりながらも、長らく読んでいなくて、最近になって読んだ本です。

中世ヨーロッパが舞台で主人公はバイキングと聞かされた時点で、どうせめっちゃ強い主人公がバンバン敵を倒して、天下統一みたいな話でしょ?と斜に構えた気持ちでいました。その読みは、非常に浅い次元ではあたっていて、確かに主人公トルフィンは若くて強いバイキングです。しかし、その目的は、どうも自らの頭目を復讐のために決闘で殺すことにある、ということが分かってきます。

そこでまず驚くのは、決闘で他の船員たちは頭目に肩入れするわけではないということです。自分たちのリーダーを殺されてしまうと明日から困るということは明らかなのに、あくまでエンターテイメントとしての決闘を楽しみ、なんなら主人公が勝った方が面白いとさえ思っているように描かれます。

多くの戦闘シーンを含めバイキングたちは、彼らの宗教的な背景があるにせよ、命を軽く見ています。この命に対する軽さが重要で、これがあるから、どんなに気の良い奴らに見えても、根本的に現代を生きる我々とは全く相いれない、と思わされるのです。

その後、主人公が何故復讐に取り憑かれているのか、といういわばエピソードゼロ的なパートに入ります。普通こういった過去編は退屈になってしまいがちですが、魅力的な登場人物と展開で、むしろこのまま終わってほしく無くなるほど面白い。さらに、後につながる非常に重要な示唆が多く、伏線の妙ここに極めり!といったところです。

そこから物語世界の現代に戻ってくるわけですが、ある大事件を契機に復讐劇というそれまでの物語のベクトルがガラッと様変わりし、主人公の置かれる状況もてんで変わってしまいます。その後の展開はかなり衝撃的ですが、凄いことに、そこからさらに物語は大きく動き、再び全然話が変わっていくのです。

同じ物語世界の一つのマンガとは思えないほど主人公を取り巻く状況は変化し、目的も、思想も変化していきます。そして、先に述べた命への考え方です。平然と敵や一般人の命を奪い、頭目を殺すことを目的に生きていた主人公が、その罪を贖おうとした時、どんな地獄が待っていて、どのような枷をはめられることになるのかといった辺りは本当にシビれます。

そして、これだけの二転三転を繰り返しながらもストーリーが散漫にならない。むろん、物語が大きな転換をするたびに「こんな話になるとは!」と驚くのですが、これまでのストーリーで語られたことを思い出すと「いや、最初からこのことを描こうとしていたんだ」と二段階の驚きを感じます。どれだけ深くストーリーを構築しているのかと、鳥肌が立ちます。

基本は無法者たちのお話で残酷な描写もありますので万人におすすめというわけにはいかないかもしれませんが、文句なしに今連載中の漫画で最高峰の一つだと思います。ぜひご一読いただき、一緒に主人公の行く末を見守りましょう。

文:山本岳史(トキシラズ)
ブログ ブックカフェ・トキシラズ

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姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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