毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。
第2の発見 幸せじゃないと感じる人へ:
『秘密の花園』1911
<あらすじ>
インドで生まれたメアリは、両親に放置され、好き勝手にしていたため、わがままでひねくれた女の子に育ちました。両親が亡くなり、イギリス、ヨークシャーの叔父の屋敷に引き取られ、そこで放っておかれた庭を見つけます。病弱で父と疎遠ないとこコリン、地元の農家の少年ディコンと、その庭の手入れをして、植物たちを生き返らせようとします。
メアリが、大人にこびず、怒られてもかまわないわ!と進んでゆく姿は、伸びてゆく花や植物のようで、とても魅力的です。読むと、新しい方向へ貪欲に踏み出す勇気が湧きます。
<心に響く言葉>
メアリは例によってこわばった冷たい表情になった。
「わたしのことを好きな人なんか、だれもいないもの」
マーサは、また少し考えるような目をした。
「あんたはどうなの?自分のこと、好き?」ぜひともメアリの反応が知りたい、という口調でマーサが尋ねた。『秘密の花園』(バーネット作,土屋京子訳,光文社古典新訳文庫) - (p.100)
ひねくれていて「どいつもこいつも大嫌い」なメアリは、自分のことも嫌いでした。
そんなメアリを、性格のいいメイドのマーサはまるで自分の妹のように世話をします。
現代の私たちも、会社や学校で嫌いな人といつも一緒にいなければならなくなったら、辛いですよね。
24時間一緒にいる自分が嫌いだったら、嫌いな人と常に一緒にいることになるので、それは考えただけで辛いだろうと思います。
作家の梨木香歩さんの言葉にも、
「それが『自分自身』であってみれば、逃げようがありません。毎日が不愉快なのは当たり前です。」『秘密の花園』ノート(梨木香歩,岩波書店)-(p30)
とあります。
誰にも自分は必要とされてないと思い込むと、人は自分のことが嫌いになります。
メアリほどではなくても、誰でも多かれ少なかれ、自分の存在が何なのかわからなくなり、
周りがみんな敵のように思えて心を閉ざし、かたくなな態度をとってしまうことがあります。
悲しませたくなくても、そんな表現しかできないときもあります。
そんなときの自分でも、マーサやその弟ディコン、母スーザンのように
「そうしてしまうのもわかるよ」とそのまま100%受け入れ、関わろうとしてくれる
存在がいることに気づけたら、それだけで救われ、勇気づけられると思います。
このあとメアリは、隠された庭を発見し、「秘密の花園」という名前をつけ、
ディコン、いとこのコリンと、大人には内緒で夢中で手入れに励み、植物たちが元気になり、荒れ果てていた庭がよみがえっていくのに喜ぶうち、自分の心もときほぐされていきます。
前回紹介した『魔女ジェニファとわたし』にも
「幸福になるためには、愛されたりだいじにされることよりも、じぶんが愛したり、だいじにしたりするものをもつことです」
『魔女ジェニファとわたし』(E.L.カニグスバーグ作,松永ふみ子訳,岩波書店) - (p.72)
という言葉が登場します。
最初、無気力で食欲すらなかったメアリは、「秘密の花園」を見つけて情熱をもって世話をするようになってから、見違えるように元気になってゆきます。
今は、大事にしてくれたり、受け入れたりしてくれる存在や場所がないとしても、自分が大事なものや愛する場所を見つけて出会えるように行動することが、幸せを感じるのに必要なのだと思います。
会社や学校も新年度を迎えるこの季節、新しい方向へ向かって踏み出したいあなたに、読んでほしい一冊です。
文責:赤松かおり
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