かきくけコラム :「大人にも響く子どもの本 」13

毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。

第13の発見 大切な存在との別れがつらい人へ:『星の王子さま』(1943)

3月は卒業の季節。今年はとくに、コロナウイルスの影響で友達や先生との突然の別れを経験された学生さんも多いかと思います。

世界的なロングセラー『星の王子さま』も、たくさんの出会いと別れがある作品です。そのなかでも、今回は星の王子さまとキツネとの別れのお話をご紹介します。

 

<あらすじ>

小惑星B612号に住んでいる、金色の髪の「星の王子さま」は、自分の星で咲いていたバラとけんかをし、旅に出ます。6つの星々をめぐっていろんな人々と出会い、7つ目の星として地球にたどりつきます。そして王子さまは…。

<心に響く言葉>

心で見ないと、なにも見えない。いちばん大事なことは、目には見えない。(中略)

—君がバラのために時間をついやしたからこそ、君のバラはあんなにたいせつなものになったんだ。

―――P190‐120『星の王子さま』サン=テグジュペリ、石井洋二郎訳 ちくま文庫 1943

 

星の王子さまは、地球にやってきてすぐ、誰にも会えないためさびしくなります。

キツネに出会い、とてもさびしいので遊んでほしいと伝えると、もし友達になりたければ「なじみに」ならないと、と言われます。

まだこの段階では、お互いにほかのたくさんの男の子やキツネと同じだし、別にいなくなってもかまわないけど、

「なじみに」なることで「君は、ぼくにとって、この世でたったひとりの人間になるだろうし、ぼくは、君にとって、この世に一ぴきしかないキツネになるだろう」と言うのです。

王子さまが時間がないと言うと「人間は、何かを知ろうにもわかるひまがない。なんだって時間をかけないと、知ったことにならないのに」と答えます。

そうやって段々仲良くなっていった2人ですが、王子さまが、旅立つ別れのときが近づいてきました。

キツネが「ああ!きっとぼく、泣いちゃうな」と言うと王子さまは、

「きみがいけないんだ、どうせ別れるなら、仲良くなっても何もいいことはなかったじゃないか。」と悲しみます。

するとキツネは、王子さまがいなくなっても、王子さまの髪と同じ金色の小麦を見るたび、王子さまを思いだす、と言います。

いなくなれば悲しいけど、思い出があればすべてを失うわけではないよ、と。

そして「秘密」を教えてあげるといって、「いちばん大事なことは、目には見えない。」という言葉を伝えるのです。

私たちも、大切な存在との別れに直面すると、悲しみに耐えられず、
これから先、自分ひとりでは生きている意味がないように感じ、どうせ別れるなら、出会わなかったらよかったのにとむなしくなってしまうことがあると思います。
しかし、時間をついやして体験や感情を共有したからこそ、たとえ相手を失ったとしても、心を通い合わせた記憶は残ります。
そんな大切な思い出を相手とともにつくり続けることは、その先を生きていくうえでも心の支えになると思います。

 

 


文責:赤松かおり
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赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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