毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。
第31の発見 1つのことだけに頼らない生き方をしたい人へ:『ルドルフとイッパイアッテナ』1987
10月は厳しい世の中をたくましく生きている野良猫のお話をご紹介します。
<あらすじ>
迷子になって家に帰れなくなった飼い猫のルドルフは、ひょんなことから野良猫の「イッパイアッテナ」と出会います。
イッパイアッテナという名前なのは「俺の名前はいっぱいあってな」と自己紹介したときにそれが名前だとルドルフが勘違いしたためです。イッパイアッテナはエサをくれる人からそれぞれ違う名前で呼ばれ、野良猫生活を謳歌しています。ルドルフはそんなイッパイアッテナから生きる知恵を学び、たくましく成長していきます。
<心に響く言葉>
みんな勝手に、おれに名まえをつけるんだ。おまえが魔女とまちがえたばあさんは、おれのことをトラってよんでいるし、
学校の給食室じゃ、おれはボスってことになってる。魚屋じゃ、デカ。交番のおまわりなんか、おれのことドロってよぶんだぜ。――― P67『ルドルフとイッパイアッテナ』斉藤洋 作 講談社、1975
そもそも、ルドルフの飼い主は、彼を捨てようとは考えていませんでした。
それなのに、ルドルフが長距離トラックの荷台で昼寝してしまったせいで、
見知らぬ東京でひとりぼっちになってしまいました。
ただ昼寝をしただけで、人生が激変してしまったのです。そんなこと予測しようがありません。
現代は、毎日いろんなことが変化しています。今日当たり前だったことが、明日もあるとは限りません。
コロナ禍のような事態の予測なんてますます不可能です。
景気が悪くなると「今いる会社に見捨てられたらおしまい」「この人に嫌われたら生きていけない」とか、
「ここで道をはずしたら人生終わり」みたいに怖くなって、見えている世界がものすごく狭くなります。
突き抜けたことをして失敗すると食べていけなくなるので、みんなそれを恐れておとなしくなってしまいます。
けれど、こんなときだからこそイッパイアッテナのような「1つのことだけに頼らない」生き方がとても大事になってきます。
イッパイアッテナは住むところも、エサをもらう先もたくさんもっています。たとえ、そのうち1つがなくなっても、
大きくダメージを受けることはありません。
昔は1つのことだけで食べていく生き方がかっこいいとされる考え方がありましたが、今はむしろ収入源も、人間関係も、1つの選択肢に自分を追い込まず、複数に頼ってリスクを分散するのが賢い時代になってきているのだと思います。
そんな厳しい情勢の世の中を生き抜く知恵が、たくましい野良猫から学べる物語でした。
文責:赤松かおり
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