毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、56回目はトキシラズ山本さんです。
56のブック
子供の頃、親に変なウソをつかれた経験はないでしょうか?私はよく「あんたは橋の下で拾ってきた」と言われていました。何が楽しくてそんなウソを、とも思いますが、子供のリアクションは興味深いのでつい、という気持ちも今ではわからなくはないです。
『キップをなくして』池澤夏樹 角川文庫
『キップをなくして』
発売日: 2009/06/24
著者: 池澤夏樹 著
出版社: KADOKAWA
ページ数: 288ページ
サイズ: 文庫
ISBN: 978-4043820030
物語の主人公は、小学生の遠山至くん。電車に乗っているとき、キップをなくしていることに気がつきます。数年前はじてめて一人で電車に乗ったときにお母さんに言われたことを思い出します。「キップをなくすと駅から出られなくなる」焦る至くん、とそこに、中学生ぐらいの女の子が「キップ、なくしたんでしょ」と声をかけてきます。
謎の中学生に導かれるまま、至くんは東京駅の奥深くにある“詰所”と呼ばれる、キップを失くした子供たちが共同生活をする場所に案内されます。そして、「キミはこれからわたしたちと一緒に駅で暮らすのよ、ずっと」と、衝撃の事実を突きつけられるのです。
少し不思議な詰所での生活、そこで出会う様々なひとたち。大人へ向かう途中での突然の空隙の中で、駅の子供たちは少しずつ自分を成長させていきます。至くんは無事に駅から出ることができるのか、そして、詰所とはいったい何のために、誰が作ったのか。
命の意味と、立ち止まって自分を見つめることの大切さを教えてくれる、とても優しい物語です。
文:山本岳史(トキシラズ)
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