かきくけコラム :「大人にも響く子どもの本 」15


毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。

第15の発見 自分らしくいたい人へ:『ムーミン谷の十一月』

 

2020年は、ムーミンの原作小説が出版されてから75周年なのだそうです。
今回ご紹介するのは、ムーミンシリーズのお話ですが、9巻あるなかで唯一ムーミン一家が最後まで登場しない作品です。

<あらすじ>

悩みをかかえた生き物たちが癒しを求めてムーミン屋敷を訪ねますが、ムーミンたちは旅に出ていて不在でした。お客たちは仕方なくムーミン一家を待ちながら共同生活を送りますが、最後にはそれぞれの悩みを吹っ切り、屋敷をあとにします。

<心に響く言葉>

「はっと、きゅうにスナフキンは、ムーミン一家がこいしくて、たまらなくなりました。ムーミンたちだって、うるさいことはうるさいんです。おしゃべりだってしたがります。どこへいっても、顔があいます。でも、ムーミンたちといっしょのときは、自分ひとりになれるんです。」

―――P119『ムーミン谷の十一月』トーベ・ヤンソン、鈴木徹郎訳 講談社文庫 1971

とんがり帽子の放浪する男スナフキンは、孤独と自由を愛していて誰にも束縛されずにいたいと思っています。そしてムーミンは、そんなスナフキンを理解し、一緒にいても邪魔しません。淡泊なようですが、だからこそ、スナフキンは自分らしくいることができます。

スナフキンが孤独にひたりたいと思えば、ムーミンは寂しいけれど引き止めず、それを受け入れます。

一緒に集っているのに、ひとりっきりでいられる。

自分とは合わない面も、「わかるはず」と押し付け合わず、
お互い無理せず自然体でいられるムーミンとスナフキンの距離感がうらやましい気持ちになります。

現代社会では、自分とは違った存在は「どう扱っていいかわからないから」と遠ざける人も、決して少なくありません。

自分と違った存在を遠ざけておけば、たしかに楽にすごせます。

しかしそれでは、自分が自分らしくいるために、相手が自然体でいることも許容できる関係は作れません。

互いの違いを越えて向き合う、ムーミンとスナフキンの関係には、現代を生きる私たちにも学ぶべきことがあるように思われます。


文責:赤松かおり
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赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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