かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」70

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、70回目はトキシラズ山本さんです。

70のブック

『凪のお暇』 コナリミサト 秋田書店

『凪のお暇(1)~(9)』
発売日 : 2017/06/16(以下、(1)についての情報)
著者 : コナリミサト
出版社 : 秋田書店
ページ数 : 154ページ
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4253156370

この漫画は、人間深掘り漫画です。その点だけでも本当に素晴らしい!その話だけしたいのですが、一応、概要を説明します。

主人公の大島凪(女性)は、空気を読みすぎる性格が限界を迎えて会社を辞め、ほとんど荷物も持たずボロアパートに引っ越し、人生を見つめ直したり、成長したりするという話です。凪は人生を立て直す事ができるのか?というのが主題ですが、恐るべきはパーソナリティの光と影の描き方です。

例えば、凪は職安で職員に理想が高すぎると怒鳴られている女性に出会います。話を聞いてみると彼女は自分で納得のいく職場で働きたいと前向きに頑張っています。しかし実は、怪しげな石のブレスレットをしていて、そのおかげで前向きになれたからあなたも買った方がいい、と主人公の凪に進めてきますが、凪は空気を読まずに断ります。主人公は嫌なことを嫌と言えたという成長が描かれてこのエピソードは終了になりそうですが、どっこいそうはいきません。女性は凪を追いかけてきます、そして、石のおかげで前向きになれたのは本当だけれど、こういうことしてたら友達は一人もいなくなった、と泣き始めます。それに対して凪は石には興味ないけれど普通に話はしようと、友達になるのです。

この人物の、前向きに頑張っているパーソナリティの光の部分、しかし、それを支えている石が人間関係を壊していくという影の部分。その影の部分が影であるということに彼女がちょっと自覚的で、けれども前向きになれた自分を捨てることはできず、石はインチキだと認めてしまうことはできないという微妙なバランスにシビレます。このように、このマンガの登場人物に、良きことだけしか考えない善人はいないし、良心の全くないモンスターのような悪人はいないのです。

他にも、何でも器用にこなすが、本心がうまく言えない人。人を小馬鹿にし楽しんでいるように見えるが、実は自分の凡庸さに自覚的な人。登場人物の数だけ人格に奥行きがあり、またそれは何重もの底があります。

あの人はどうせこういう人、と決めてしまいがちな頭にガチンとヒビを入れてくれる。傑作の予感がするマンガです。ぜひご一読ください。

文:山本岳史(トキシラズ)
ブログ ブックカフェ・トキシラズ

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あさのは商店

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姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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