毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、74回目はトキシラズ山本さんです。
74のブック
『Gutsy Gritty Girl』 シマ・シンヤ KADOKAWA
『Gutsy Gritty Girl』
発売日 : 2022/07/12
著者 : シマ・シンヤ
出版社 : KADOKAWA
ページ数 : 210ページ
ISBN : 9784047371316
第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞したシマ・シンヤによる短編集。
作品はポストアポカリプス物やシスターフット、ジェンダーなど今日的なテーマのものをしっかり扱っていて、マンガ表現は今日も邁進してるなーと思うと同時に、スタイリッシュな構図の絵作りや、展開のスピーディーさをもたらす、絵だけで説明して会話を省略する所なども手慣れていて、デビューから五年ほどとは思えない熟してます感もしっかり味わえる作品群です。
この中でも気になった一編が『キバタンのキーちゃん』。物語の始まりは動物園の鳥籠の中、人間の言葉で考えるインコのキーちゃんが(つまり吹き出しの中で喋るけど人と会話するわけではない)自分のこれまでの生活を回想するところから始まります。
配偶者を亡くした初老の男性が、寂しさを紛らわすために飼われ始めたキーちゃんは、その後、家族の中で何度か飼い主が変わり、最後に動物園にやって来るというのがストーリー。キーちゃんが長命なことを除けば設定は割と普通にありそうな話で、この短編集の中では逆にちょっと異色な作品です。
動物目線のストーリーというのはよくある語り口だとは思うのですが、概ね言える効果は、人間の生活が客観的になって、何が起こっても些細なことのように思える、しかし、妙に人の生活の愛おしさを匂わすことができる、ということがあると思います。
この話の中では、初めの飼い主の初老男性が老人ホームに入り、キーちゃんを預かった娘が、父親の口真似(そこは普通のインコ)をするキーちゃんを見て、もう以前の元気さを無くしてしまった父を思って寂しげな表情をする、が、それを見てもキーちゃんは、上手く真似をすれば前の飼い主は喜んでいたのに、今度の飼い主はあまり喜ばない、これは人間の個体差かな?と思っていたりする。そのとぼけた感じと、キーちゃんはもう前の飼い主に会えないという現実のギャップにグッときます。
さらに、作者の紹介と最後のところに新しいスターウォーズの原作を担当って書いてあって「まじで?!」って感じですが。青田買いと言う意味でも、今のうちに読んでおくのも良いのではないかと思います。よかったらご一読ください。
文:山本岳史(トキシラズ)
ブログ ブックカフェ・トキシラズ