かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」75

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、75回目は陽文庫みずいけさんです。

75のブック

『愛される街』三浦展 而立書房

『愛される街』
発売日 ‏ : ‎ 2020/5/19
著者 : 三浦展
出版社 ‏ : ‎ 而立書房
ページ数 ‏ : ‎ 320ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4880594199
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4880594194

こんにちは。

朝、夕がめっきり涼しくなってきましたね。 
今回は『愛される街』三浦展 而立書房
という本を紹介させてもらいます。

著者の三浦さんは、消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究をしている方で、この本では女性の活躍、子育て、介護の観点も含めて、「愛される街」とは、どのような街なのかを考察しています。

三浦さんは他にも『ファスト風土化する日本』(洋泉社)や『第四の消費』(朝日新書)という本も書かれていますが、本書にもちょっと繋がっていくので、「第四の~」について、ちょっと説明すると…

第四の消費とは、
2000年代以降に垣間見える消費傾向で、キーワードとしては「つながり」と「コミュニケーション」。
一人一台、携帯電話を持ち、スマートフォンの中に音楽プレーヤーもラジオもテレビもゲームもある世代。
洋服もユニクロで良い、車はカーシェア、家もシェアハウスでよいと思うのが特徴で、ただ消費するだけでは満足できず、物ではなく、人とのコミュニケーションや繋がりで豊かさを感じる世代。
(2035年以降もこの消費の仕方が続くのではないかと三浦さんはいいます。)

人とのコミュニケーションや繋がりで豊かさを感じるということが、人はどんな街を好み、住みたいと思うのか、ということにも繋がっていくように思います。

いい街とは、路地裏のような空間があり、個人の趣味を延長させたような古本屋、古着屋や飲み屋のような個人商店が並び、大手資本のチェーン店などが少なく、一見自分とは直接関係ないようなノイズもあり、ある種の猥雑さをも含むような街ではないかと思います。

また、おしゃれな人や元気な人だけではなく、軒先に出て、ただただ人の往来を眺めているだけのおじいちゃんがいて、調子が悪そうな人、多少道から外れた人でも包みこんでしまうような街が、いい街、愛される街、なんじゃないかなと。

本書では愛される街の実例として、西荻窪のような街をあげていますが、神戸の湊川商店街あたりが僕はとても好きです。商店街は活気づいていて、安い中華料理屋や洋食屋、古いビル、映画館、昔ながらの純喫茶、ちょっと新しめの服屋さんなどがあり、隣にはすぐ風俗街があるけれど、どんな階層の人でも排除される雰囲気がなく、それがなんとなく心地いい。

今回紹介する『愛される街』は『人間の居る場所』の続編として書かれている本ですが、文字どおり、人間の居る場所ってどういうところかな、と考えさせられます。

管理しやすいように、事故がないように、清潔なようにと造られたような老人ホームなど、食事は出てきて、見守る他人もいて、安心といえば安心だけど、ある意味では無菌状態過ぎて楽しいのかな…とか。(人間の感性をよく考えたら、また違った建物づくり、考え方になりそうで…。)

あと本書では「歩きやすい道と歩きたくなる道は違う」とも書かれていますが、そのとおりだな!と。

塩屋の町も僕は好きなのですが、あそこは道も狭くて、車は行き交いにくいし、坂道だらけ。高齢者にやさしい道かといえば、全然そうではない。だけど歩いていて、とても楽しい。

山と海に囲まれて気持ちがいいのもあるけれど、整備されていない区画、建物の裏に何があるかわからなくて、歩いていて好奇心が刺激される。

駐車場を確保するスペースなどもないから、駅前に大手資本のチェーン店もほとんどなくて、個人商店が多い。

町を歩いていると、至近距離に洗濯物とかがあって、ちょっとびっくりするけれど、それもある種の安心感を感じさせてくれて、ひとり暮らしをしていてもあまり寂しくないだろうなぁと感じます。

あともうひとつ、スクラップアンドビルドと愛は相反する、と三浦さんは語っています。経済的な理由から解体を選ぶことが多いとは思いますが、その建物や土地を愛していると簡単に更地には変えられないよな…と、改めて思いました。

姫路でも、駅前では解体と造成が進み、マンションや駐車場ばかりが増えていて、今後はますます駅前に行く理由がなくなっていきそうだと感じます。

マンションをおりていって、電車に乗り、オフィスに向かう。
帰りはオフィスから出て、電車に乗り、またマンションに入っていく。
目的地には最短距離で確実には着くけれど、みちくさも何もない、見たいものだけしか目に入らないようにする生活ってたのしいのかな、と。
人の営みがあまり見えない生活って、なんだか、つまらない気がします。

もう日本中にインフラなどのハード面は充分あるので(住宅なども、もう人口分はあるのでは…と思ってしまいますが)、あとはソフト面(中身)では、と思うのですが、どうなのでしょう。

業務地、住宅地、商業地、工業地帯…と明確にわけられていった近代の都市計画において、なくなっていったものは何だろう?人間の感性が喜ぶような「まち」のありかたって何だろう?と考えさせてくれるような本です。

おわり

文:みずいけあきら(陽文庫)
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あさのは商店

あさのは商店

姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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