かきくけコラム :「大人にも響く子どもの本 」56


不定期で、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという播磨出身のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。

第56の発見:喜びも悲しみも、深く感じたい人へ『にんぎょひめ』(1967)

赤松かおり / にんぎょひめ / アンデルセン さく

5月は子どもにも誠実だと思った絵本をご紹介します。

<心に響く言葉>

にんぎょひめは、あさひの ひかりのなかで、あわに なって しずかに きえていきました。
かなしみでは なく、ひとをあいした よろこびに つつまれながら、たかい たかい そらへ のぼっていきました。

―『にんぎょひめ』p30、ぶん、そのあやこ え、いわさきちひろ 1967、求龍堂

『氷点』などで知られる作家・曽野綾子と、明るく透き通るような水彩画で有名ないわさきちひろがタッグを組んで描いたアンデルセンの童話『にんぎょひめ』です。

人魚姫は溺れている王子を助け、恋をするものの、声を魔女に渡して足をもらい人間の世界に近づきます。しかし、王子は他の女性と結婚してしまい、人魚姫は泡となって消えてしまうという悲しい物語です。

ディズニー映画『リトルマーメイド』ではハッピーエンドに改変されていますが、この曽野綾子版でも悲しい結末には変わりはありません。しかし、無償の愛を貫いた人魚姫にとっては、これが本当の意味でのハッピーエンドだったのではないかという描き方がされており、少し涙がでそうになりました。

曽野さんによる解説には「子どもには早い段階で人生のさまざまな姿を見せることが大事。喜びも悲しみも深く感じることで、豊かな生き方ができる」と書かれています。

児童書では「努力すれば必ず報われる」という話が多いですが、大人になると「努力すれば必ず報われるわけではない」現実を痛感します。それでも愛することの尊さは失われないというメッセージが子どもにもごまかさずにきちんと書かれており、誠実だと感じました。

いわさきちひろさんの絵もいつもの明るい色彩ではなく、物語の静かな哀しみに寄り添うように落ち着いたトーンで描かれており、言葉と絵が重なり合って、心にじんわりと余韻がのこります。

文責:赤松かおり
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赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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