毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、69回目は陽文庫みずいけさんです。
69のブック
『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』和田靜香・著、小川淳也・取材協力 左右社
『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』
発売日 : 2021/9/7
著者 : 和田靜香・著、小川淳也・取材協力
出版社 : 左右社
ページ数 : 280ページ
ISBN-10 : 4865280456
ISBN-13 : 978-4865280456
相撲・音楽ライターの和田靜香さんが、香川一区選出の立憲民主党議員・小川淳也さんに、まさに体当たりで、自分の生活の問題からくる不安や疑問を率直にぶつけ、それに小川さんが答えていく(時折涙を流しながら)という、インタビューのような問答集のような本です。
和田さんは執筆当時50代。20代は作詞家の湯川れい子さんのところでアシスタントをしていて、その後、ライターの仕事と併せて、コンビニ、パン屋、スーパー、レストラン、おにぎり屋さんなど、非正規の仕事を転々としながら、日々を生きてきました。
小川さんを追ったドキュメンタリー映画『なぜ君は総理大臣になれないのか』を見て記事を書いてくれないか?という依頼が、和田さんに来たことから縁が出来、小川さんのことを本にすることを思いたちます。
とはいえ、当初、政治の知識があまりない和田さんは、小川さんにそもそも何を質問すれば良いかわからず…まずは自分自身が感じている不安なことを書き殴ります。
書き出した言葉は、
「安心させてくれない」「信頼できない」「ウソが許される」「公営住宅が少ない、家賃が高くて住み続けられない」「働いても時給が安い」「言葉が届かない」「女性差別があたりまえ」「貧困がおいてけぼり」「早く死んだ方がいいように思える」「年金が払えない」「健康を守ってもらえない」
それはまさに社会保障と働き方、住宅に関して、さらに政治そのものへの不信感だということに気づきます。
個人的な問題は、政治的な問題と繋がっていると誰かが言っていたような気がしますが、将来もらえる年金、毎月払う税金、国の経済状態、環境や水道、電気などの日常を支えるインフラ設備に至るまで、政治と関わらないものはないとも言えます。
政治と宗教、スポーツ(阪神ファンか、巨人ファンか、みたいな?)は公共の場(職場とか?)ではあまり取り上げてはいけない、相応しくない話題とされ、政治の話をすると(たぶん年齢が若ければ若いほど)、真面目過ぎると思われたり、からかわれたりしそうですが、それもなんだかおかしい話です。
小川さんは、ポストコロナの最重要課題は「人口問題」だといいます。そして、最近よく耳にする環境問題も人口問題にリンクしているといいます。
これまた薄ぼんやりですが、これから日本は人口減っていくのに(純粋に購買者数が減る)、政府がいうようにGDPが増えていくとか、経済が拡大していくとか本当なのかなぁと薄ぼんやりと思いました。
経済状況(家計も国も)が厳しくなっていく中で、私(私達家族)だけは生き残りたい、他人を出し抜きたい、負け組になりたくないという考え方が広がるのもなんだか嫌な臭いがします。
仕事(働き方、何かしらの外貨の稼ぎ方)のあり方は、きっと学校での教育の様子とリンクしていると思う(リンクするのが良いかもわからないけど)ので、教育も経済や政治と関わり合いのあるものだと思います。
『私の人生に則った、私の生活から政治を書く、それしかやれない』
『私の物語として政治を語る。怒りも悲しみも、手探りしていく様子も、正直に書く。』
と、和田さんも本書内で語りますが、政治のことをわかりきった人でないと、選挙の話、国の話はしてはならないというのではなく、
「税金ちょっと高くね?」
「保育園全然入れないんだけど!」
みたいな、身近なことから政治のことを考えてみても良いかもしれません。
最初は
「政治家には友達がいますか?」
「政治家は金持ちですか?」
という小学生のような質問から、和田さんも始まりました。そこから、小川さんから勧められた本も含めて、参考書籍を60冊以上読み、夜中の2時〜3時まで勉強に励み(本人曰く「更年期の受験生状態だった」とのこと)、途中からは税金や沖縄に関しての難しい話題にも、食らいついていきます。
政治についての入門書としても面白い本だと思いますが、国会議員に対するただの政治インタビュー集ではなく、対話の中にドラマがあり、2人の成長物語のようでもあります。
最後に小川さんの言葉を引用します。
『何年か前に聞いて驚いたことのひとつなんだけど、社会が変わるときって「初めに詩(うた)来たる」って言うんだってね。初めに詩がきて、次に音楽と芸術が来て、その後に設計とか技術が来て、最後に建物が建つと、建築の専門家の方が教えてくれたんです。
時代の価値観とか歯車が動いてるときって初めに詩なんだと。感性と感受性の世界と言語化の接点なんだろうね。最後に建つ建物とは、社会の構造を再設計するとするなら、それは法律と予算かもしれないね。』
P257
とのこと。
なんとまぁ、詩や文学の価値まで同時に語ってくれていて、少し嬉しくなりました。
遠いところにあるような問題に対しても、決してお見送り神帝(ビックリマンシールのキャラクターにいそう!)にならぬように…と、この本を読んで少しだけ襟を正しました。
おわり
文:みずいけあきら(陽文庫)
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