毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、22回目は陽文庫みずいけさんです。
あけましておめでとうございます
新年あけましておめでとうございます。
今年もてくてくひめじでの「かきくけコラム」、リアルイベントである「ブックブックこんにちは」などよろしくお願い致します。
さて、年末年始は時間があるときに少し本を読めました。斜め読みも多かったのですが、読みたくて溜まっていた本に目を通すことが出来て良かったです。
と、久しぶりに姫路駅前のジュンク堂に行きました。
立ち読みやら何やらしていたら3〜4時間経っていたのですが、人もたくさんいたし、食い入るように本を読んでいた人が多数いて、その人達の頭の中を覗きたくなりました。
日々生活をしていると興味がいろいろ移り変わっていくし、自分だけの疑問もたくさん出てくるので、また時々本屋や図書館に行って、今の自分に添った本を探していけたらなぁと思います。
あと、今年は何かを得るとか、自分にとっての実用性のある本だけではなく、純粋に読んでて楽しいものも読んでいきたいなと思います。
と言いながら、今回の紹介本もちょっと堅い本かもしれません。
22のブック
「街の人生」岸政彦
発売: 2014年5月
著者: 岸政彦
出版社: 勁草書房
サイズ: 四六判
ページ数: 328ページ
ISBN: 978-4-326-65387-4
岸政彦さんは社会学者であり、沖縄と被差別部落を研究テーマにしている、少し毛色の違った学者の方です。
社会学と聞くと事象を理論的枠組みに従って整理・分類したり、エッセンスを抽出して一般化したりするイメージですが、本書内で岸さんは、市井の方の語りを余計なことをせずにほぼそのまま載せています。
「私」というものは、必ず断片的なものです。私たちは私から出ることができないので、つねに特定の誰かである私から世界を見て、経験し、人生を生きるしかないのです。私たちに与えられているのは、あまりにも断片的な世界です。
『街の人生』はじめに より
インタビュー形式で出来ている本書の登場者各人の語りはそれぞれ人生の「断片の断片」ですが、それらを集めたものは結果的に「人生の形に近いもの」となっていて、彼らの語りを聞くことで「私ではない私の人生」を垣間見ることができる。それが何か非常に本質的なことと関係しているのではないか、と岸さんは言います。
『街の人生』と聞くNHKのドキュメント72時間っぽくもあるのですが、この本は特別な人の特別な話では構成されているわけではありません。
登場者は西成のおっちゃん、シングルマザーで風俗嬢の女性、ニューハーフの人、摂食障害の女性、外国籍のゲイの人などで、どちらかというとマイノリティーの方に焦点をあてていますが、市井の人のリアリティ溢れる生活史で構成されています。
登場者への聞き取りをまとめたりはせず、聞き手と話し手のやり取りがそのまま文章になっていて、答えに詰まった部分、間が出来た部分もそのまま文章になっています。加工されてないありのままのやり取りを通して、話し手の言外の意味も汲み取れるようで読み応え(聞き応え?)があります。
聞き手の岸さんは多くは語りませんが、話し手に対する眼差しの優しさも感じられ、マイノリティの方までも包括した社会の在り方、街の在り方を間接的に明示してくれているようにも思えます。
僕は社会学者の方については詳しくはありませんが、これからはただ分析、批評するだけではなく、より柔らかな目線で街に降りて行って、何か具体的に行動する学者の方が増えるのかもしれないと感じました。
岸さんは他にも『断片的なものの社会学』と処女小説である『ビニール傘』、ミシマ社から出版された、コーヒーと一冊シリーズ『愛と欲望の雑談』(雨宮まみさんとの共著)なども書かれています。
新春から特に明るいわけでもない本の紹介となりました。
隠れてしまいがちなごく普通の人々も「街」を構成する一人であり、目立つ人や声の大きな人、地位の高い人だけが「街」の構成員なのではないことをこの本を通して思い直しました。
また良かったら手にとってみてください。
おわり。
文:みずいけあきら(陽文庫)
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