毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさん。
子供の頃読んだ本を改めて大人になってから読んでみると、驚きや学びなど、たくさんの発見があることに気がついたそうです。
長く読み続けられている本には、ただおもしろいだけでなく、大人になったからこそ染みてくる深い言葉や込められた想いなどが。
大人になってからこそ読みたい子供の本。
「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。
はじめに : 再発見のたのしみ
子どもの本にも、大人が学べるところがあるはずです。
小さなころから本が好きで、ごはんの時間になってもやめられず、どこにいくにもお気に入りの本を持ち歩いていました。
印象的なところばかりを読んで、よくわからない部分は読みとばしていたので、大人になってから、子どものころに読んだ本を読むと「こんなことを言っていたのか!」と驚くことが多いです。
子どもの本は、純粋な子どもには夢を与えられるけれど、世間で苦労している大人には関係がないと思われるかもしれません。
けれど、本の中の言葉がふとした瞬間に、励ましてくれることがあります。それが、大人にとっても、世の中を生きていくための力にもなると思います。
大人になってから子どもの本を読み返して知る、そんな再発見も、とてもたのしいものです。
古典作品のなかから、大人のあなたをきっと励ましてくれる言葉をご紹介したいと思います。
第1の発見 ひととちがうことを喜べるようになりたい人へ:
『魔女ジェニファとわたし』1967
<あらすじ>
転校生で友達のいないわたし、エリザベスは、自分は本当は「普通の女の子のふりをしている魔女」だというジェニファと出会い、「魔女見習い」として修業をはじめます。
エリザベスは、魔女のジェニファと土曜日ごとに図書館に行っては魔法の勉強をします。呪文を唱えたり、魔女の掟を守ったりして、みんなは知らないけれど、「じぶんだけがひととちがう」ことを楽しむようになっていきます。
この本を選んだのは、現代にこそ読者に響く内容になっているのに、日本では品切れになっているのはもったいないと思ったからです。(図書館や、中古本では読めます)
エリザベスとジェニファは、何か特別な力があれば、学校で浮いているのにも耐えられると感じ、自分たちは魔女だといって、魔法の修行をします。しかし物語の最後では、ふたりとも魔女のふりをやめて、ほんとうの自分たちでもたのしいのだ、ということに気づきます。
現代に生きるわたしたちも、SNSで盛った投稿をしたりして「ふつう」と思われることを恐れているのに、かといってみんなと一緒じゃないことも怖くて、だんだんと自分がわからなくなってしまっている人もいるように思います。
そんな、承認欲求に悩む大人やそうでない大人、読むすべての人に、この本は「自分たちはそのままでも価値ある人間と思っていいんだ」という自信を与えてくれるはずです。
<心に響く言葉>
「ジェニファがちゃんと一人前の魔女なことはわかっていました。ひとりの人間について、それほどだいじなことがわかってれば、そのほかのことはどうでもいいのです。」
『魔女ジェニファとわたし』(E.L.カニグスバーグ作,松永ふみ子訳,岩波書店) - (p.66-67)
エリザベスのお母さんは、要領よくきちんとしているシンシアみたいなお友だちと遊んでほしいと思っています。しかし、エリザベスは、シンシアが大人の前ではいい子ぶるいじわるな性格だと見抜いていました。そしてジェニファが自分をしっかりもっている魔女だということさえわかっていたらいいのだといいます。
見た目だとか、お父さんの職業がどうだとか、大人は肩書きばかりを見るけれど、その人の本質さえわかっていれば、そのほかの情報はどうでもいいのだと言ってくれていることに、励まされます。
「おかあさんは、わたしのいわゆる『社会性』について心配していました。ということは、私がお友だちをつくるべきだというのです。(中略)おとうさんは、ふつう体温は36度5分だけど、36度でも健康な人もいる、なんていっていました。そのひとたちにとってはそれがふつうなのです。『だから、なにがふつうかなんて、だれにもいえるもんか。』」
『魔女ジェニファとわたし』(E.L.カニグスバーグ作,松永ふみ子訳,岩波書店) - (p.131)
心配するお母さんに、お父さんは、そもそも「ふつう」なんて存在しない、と言い切っています。
平熱がひとつじゃないように、自分が一番気持ちいい状態が、その人にとっての「ふつう」なのです。
それぞれが、それぞれの「ふつう」を受け入れられるようになって、ひととちがっていてよかったと思える世界になってほしいと思います。
50年も前に書かれた物語なのに、決して古さを感じさせません。
みんなが「わたしはわたしでいい」「あの子にとってはあれがふつう」と思えたら、
差別やいじめもなくなるんじゃないかと思います。
作者も出版後のスピーチで、いいたいことは、
「絶対にやわらかーな書き方をしなきゃだめ。チョコレート入りのソフトクリームみたいにね。」
『トーク・トークカニスバーグ講演集』p.27)
と言っているとおり、押し付けがましくなく、作者のやさしさが伝わってきました。
「ふつう」という言葉を恐れている人、「ふつう」と言われ続けている人、どちらも励ましてくれる物語です。
文責:赤松かおり
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