かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」37

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、37回目はトキシラズ山本さんです。

37のブック

言葉の乱れというものはいつでも年長者の説教心をくすぐるようで、「最近の若者はこんな言葉も知らんとは、けしからん」「へんな喋り方しおって、日本語をなんだと思っておる」などというのはいつの時代もありそうな話です。

私が若かりし頃には、チョベリバ、なんていうのが流行りました。知らない人もいるでしょうから説明しますと超very bad を省略して、チョベリバ。というわけです。同系列の省略語に超MK5だとか、チョブチョバなんてのもありましたっけね。当然ガッコウの先生たちは顔をしかめてましたが、「昔の人だってモダンボーイを略してモボっていってたじゃないか!」なんて反論を今ならしてみたいところです。とは言え、別にチョベリバの肩を持つわけではないんですよ。言ったことないとおもいます。

今勢いのある日本語といえば、やはり「かわいい」が最右翼ではないでしょうか。10代20代の人たちの使う「かわいい」の意味の広がりたるや、同じく意味広範な「どうも」に迫る勢いがあるのではないかと感じられる今日この頃です。この間お客さんがこんな会話をしていました。

お客さんA「ねーこれみて」スマートフォンをみせる
お客さんB「うわ、かわいいー」
お客さんA「ね、かわいいよねー。大きさがすでにかわいい」
お客さんB「ねー、あとこの色もなんていうか」
お客さんA「あーわかる、かわいいよね」
お客さんB「そう、かわいい」
店員さんA「(ほんまにわかりあってんのかい!?)」

この会話の語彙力の無さに脱力しなかったと言うと嘘になりますが、これは若者の優しさの表れではないかとも思うのです。

とにかく全ての評価をかわいいに統一しておけば、当面の諍いはなくなります。字面では一つの「かわいい」ですが、含蓄される意味合いは人それぞれ、そこに目をつぶり「(スーパー)かわいい」も「(概ね気に入らないが)かわいい(と言えなくはない)」もおなじく「かわいい」。自らが良し(=かわいい)としたものを、相手も良しとしているわけですから怒る必要がない。優しい世界です。どこが良いのかは自分の中でわかっていれば良いですし、「(いまいちピンとこないけど)かわいい」といったのであればその理由は後で考えましょう。

詩人・中原中也は太宰治に「なんの花が好きか」とたずね太宰が「モモノハナ」と答えたため殴りかかり、大乱闘になったそうです。(『小説 太宰治』檀一雄 岩波現代文庫 より意訳)

現代のかわいいがあったなら、こんなことにはならなかったはずです。

というわけで今日の本はかわいい本です!

『いいおかお』松谷みよ子・文、瀬川康男・絵

『いいおかお』
発売日: 1967/4/15
著者: 松谷みよ子・文、瀬川康男・絵
出版社: 童心社
ページ数: 20ページ
ISBN: 978-4-494-00102-6

 

いいお顔してたらみんな集まってきて、みんないいお顔をして、そしたらお母さんがビスケットくれるというかわいい絵本です。

もう展開がすでに、かわいいよね〜。

文:山本岳史(トキシラズ)
ブログ ブックカフェ・トキシラズ

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姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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