毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
1年に何度かある「第5週目」の水曜日にだけそっとていねいにつづられる、宮下ひろみさんの本についてのコラム「五週目のほんばこ」の3回目です。
すんだことはすんだこと
皆さん、こんにちは。3ヶ月ぶりに5週目水曜日がやってきました。
まだしばらくは暑い日が続くようですが、日暮れが早くなり、秋の訪れを感じるようになりました。
家の近くには大きな蓮根畑があり、毎年夏にハスの花が美しく咲きそろいます。
それを見るのが私の夏散歩の楽しみなのですが、もうすっかり花は終わり、タネと葉が残るのみとなりました。
さて、今回ご紹介するのは、随分昔、ある暑い日のひと組の夫婦の物語
「すんだことはすんだこと ‥または 家のしごとがしたくなった おやじさんのお話」
(ワンダ・ガアグ 再話・絵/ 佐々木マキ 訳、福音館書店、1991年)
です。
おやじさんの名前はフリッツル、毎日朝から晩まで日の照りつける中、野良仕事に精を出す。
おかみさんの名前はリージー、こちらも家事と育児、バター作りに動物の世話と毎日大忙し。
だけどおやじさんは、自分の仕事の方がずっと大変だと思っていた。そしてあるカンカン照りの暑い日、野良仕事から戻って腹立ち紛れにこんなことを言った。
「リージー、おまえにはわからんだろう、男の仕事がどんなもんか。おまえの仕事と言ったら、ほんのちょっと家の周りをのたりくたり、ぶらつくだけじゃないか」
我が家なら間違いなく夫婦喧嘩勃発と思われる言葉ですが‥気のいいリージーはこう応えます。
「そうだねぇ、そんな風に思うんなら、明日から仕事を取り替えっこしてみようじゃないの。」
そして次の朝、働き者のリージーは夜明け前に家を出て牧草地へ向かいます。
家に残ったおやじさんは?朝食のためにソーセージを炒めていた。美味しそうに焼ける音と匂いにリンゴ酒を飲みたくなって地下の酒樽へ。酒がコップを満たす様子をフリッツルが満足気に眺めていると、台所が大騒ぎ!
慌てて駆け上がると飼い犬がソーセージを咥えて逃げる。
追いかけれども犬は早い。諦めて帰路に着いたフリッツルの手には酒樽の栓が‥
リンゴ酒は既に地下室いっぱいに流れ出ていました。その様子を眺めていたフリッツルはやがてこう言いました。
「しょうがない。すんだことはすんだことだ」と。
タイトルでもあるこの「すんだことはすんだこと」。実はおやじさんの口ぐせなんです。
一見ポジティブでさっぱりした言葉に聞こえますが、この人の場合はそうじゃない!その場で起きてる問題を「すんだこと」にして放置したまま次へ行ってしまうものだから、このあと次々とトラブルが続きます。
何が起こったかは表紙の絵を参考に想像してみてくださいね。
何をどうしたら雌牛が家の屋根からぶら下がることになるのかしら?
そして同じ時、家の中では何が起きていたのか?
あとは本文を読んでのお楽しみです。
さて、昼がきて、ご飯を食べにリージーが帰ってきました。最初に救出したのは雌牛。吊り下げられてふらふらだったけど無事だった!
畑は荒らされ、娘はバターでベトベト、飼い犬は食べ過ぎでひっくり返っています。
あらあら?肝心のフリッツルはどこ?
大鍋の中から助け出されたおやじさんはホトホト懲りてこう言いました。
「おまえさんの言う通りだよ。家の仕事はちっとも楽じゃない」
ところがおかみさんはさらりと返します。
「はじめはちょっと大変だけど、明日はもっと上手くやれるかもしれないよ」と。
それを聞いたおやじさん、「すんだことはすんだこと、おれの家仕事は今日限りだ。頼む、お願いだから野良仕事に戻らせてくれ。おれの仕事の方が大変なんて、もう決して言わないから」
勝手だけど、すぐに否を認めて反省するのがおやじさんの良いところ。
そして、何より一番えらいのは受け入れるおかみさん。
「そういうことだったら、あたしたち、きっと仲良くしあわせに暮らしていけるね」
そしてそのとおりに暮らしたとさ。
このお話、著者のガアグのおばあちゃんのおじいさんのお母さん(何代前?)のそのまた前のご先祖さまから受け継がれてきたものだそうです。原書の「Gone is gone 」が出版されたのは1935年。
ふるいふるいお話、でも、なんだか今の自分たちにも当てはまるところがあるような‥クスッと笑える楽しい絵本です。
文:宮下ひろみ