かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」41


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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

かきくけコラム

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「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、41回目は陽文庫みずいけさんです。

41のブック

「その島のひとたちは、ひとの話をきかない―精神科医、『自殺希少地域』を行く―」森川すいめい

発売: 2016/06/24
著者: 森川すいめい
出版社: 青土社
サイズ:
ページ数: 193ページ
ISBN: 978-4791769315

精神科医の森川すいめいさんが「自殺希少地域」に赴き、実際に現地に寝泊まりし、そこで出会った人達と話をし、なぜその地域には自殺が少ないのかを考察する。そして、人が生きやすい環境とはどういう環境のことをいうのかを探っていく。主に例として出てくるのは徳島県の旧海部町という場所だが、その他にも自殺率の低い東北の村などが登場する。

巻末に本書の結論として7つの項目がまとめられていて、そこを拾い読みするだけでも為にはなるが、森川さんのフィールドワーク中のエピソードが興味深い。

【島から一度出て、帰ってきた若い子のエピソード】
その若いひとは、都会に出て仕事である程度成功した。しかし都会に出て、そこには何もないとわかったのだという。
「きらびやかな町でした。でも、ね」
美容院に行ったとき、その若いひとはいつも固まってしまっていた。
「かっこつけていたんですよね。かっこつけなきゃいけないんだって。美容院に行っても、そこでまたかっこつけて。なんかみんな、かっこつけていなきゃ生きられない町だなって」
〜中略〜
「私、わかったんです。じいちゃん、ばあちゃんが、ずっと私に言ってくれたことを」都会生活をしながら思い出したことばが、「ちいちゃいころから、「そのまんまでいいんだよ」「かっこつけなくていいんだよ」って言っていたのを聞いていた」それを思い出して、この地域に戻ってきた。そして今、とても生きやすいという。
(p.80, 81)

他にもいろんなエピソードが出てくるが共通しているのは町の人が常に、「自分がどうしたいか」という基準だけで動いているということ。

「雑貨屋さんに櫛(くし)買いに行ったらなかったけど、代わりに自分の私物の櫛を渡された。」「『八二キロ先に歯医者がある』と言われたときに、あまりにも当たり前のように『車で送っていくよ』と宿のおやじさんに言われた。『よかったら送っていこうか』とは言われなかった。」(p.188)など、本書にはその地域ならではの話が出てくる。

人と関わるとき、大人になり分別がつくようになればなるほど 、「こんなことをしたらあの人のためにならないのではないか」「じっくり話を聞いてから」「相手のサインを読みとって」などと、複雑にコミュニケーションを考えがちになる。それが社会常識といえば常識なのだと思うけれど、他人と自分は元々違うのだから、相手の意向を考えずに、もっと自分がどうしたいかを基準にして動いてみる。

あらゆる物事に対して大らかで寛容な地域が、人が生きやすく、自殺率も低い地域なのではないかと一般的には考えがちだが、本書を読んでいるとその考えが覆されてしまう。

ジョイフル徳永

この本を読んでいて、小野市にあるジョイフル徳永という、食料品も婦人服もホームセンターとしての機能もある、元々何屋さんから始まったのかわからない大型店舗を思い出した。

最近用事があって3回程買い物をしたが、3回ともレジで精算したときにちょっとした会話が生まれた。

1度目は30代くらいの女性のレジ打ちの人に、会計658円のところに1158円を出したら(お釣り500円玉でくださいね、という意味で)、「お兄ちゃん計算早いねー!私意味わからんかったわー!」と言われ、

2度目は「領収書がほしいです」と言ったら、「手書きの領収書じゃなくて良いん?よう言われるんやけど、普通の紙のやつはすぐ印字が薄くなってもうて…ウンヌンカンヌン…」

3度目はまた普通に会計に行ったら、ジョイフル徳永の建物の構造についての話が、レジのおっちゃんからあった。(店は、中二階や半地下みたいな構造が入り乱れていて、建物全体がどうなっているのかよくわからない。)

毎回急いでいたので、「なんか余計なこと話してくるなー」と思っていたのだが、全体的に店にはどこかのんびりした雰囲気が漂っていて、家と職場の境目がないというか、家にいる延長そのままで接客をしているような印象を受けた。だからといって嫌な感じとかではなく、むしろなんとなく暖かい感じが伝わってくるような場所だった。

旧海部町の町民の人の振る舞いと、ジョイフル徳永での店員さんの振る舞いは、ひとつひとつの行動が効率的か効率的でないかと問われれば、どちらも非効率といえるのかもしれない。けれど、無駄がないとか、一般的に意味のなさそうなものが本当に意味のないものなのかとふと考えさせられた。

人にとっての普通とは何なのかは定義しづらいですが、人に対しても物事に対しても、もう少し構えることなく自然な感じでいても良いのかもしれないと。

自殺希少地域がパラダイスなわけではないが(ジョイフル徳永も?)、人との関わり方において大切なこと、都会の生活では抜け落ちてしまったか、欠けてしまったようことがそこにはあるような気がした。

町民の「この島のひとたちは強い。自分を持っている」そして「この島のひとたちは、ひとの話をきかない」 という言葉の深い意味が本書を読み進めていくと良くわかる。

『都会の生活に、効率の中でもまれていく生活に、効率の中で生まれる不幸を診療という形でひとつひとつ解決しようと試みる毎日』に疲れていたという著者。

自殺率が低い…という一点だけに絞って取材を重ねているが、考えさせられることが多々あるなぁと思った本なのでした。

おわり

《追記》
ちなみに数日前、ジョイフル徳永に4度目に行ったら、今回は特に店員さんとのやりとりはなく店を後にしました。うーむ。

文:みずいけあきら(陽文庫)
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公開日 : 2019-9-12
最新更新日 : 2019-9-12