毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
1年に何度かある「第5週目」の水曜日にだけそっとていねいにつづられる、宮下ひろみさんの本についてのコラム「五週目のほんばこ」の10回目です。
10個めのほんばこ|『一色一生』志村ふくみ・著(講談社文芸文庫)
みなさん、こんにちは。
長かった梅雨もそろそろ明けて、8月がやってきますね。
今回ご紹介するのは、
志村ふくみ著
「一色一生」
講談社文芸文庫
です。
今、姫路市立美術館で志村ふくみさんの作品展が開催されています。(8月30日まで)
以前、京都の美術館で作品展が催された時に、絽で仕立てられた薄翅のような美しい着物に目を奪われました。触れたら、着てみることができたらどんな風に感じるのだろう、ドキドキして、しばらくその前から離れられませんでした。
この本には染織家として、自分の求める色、織を一心に求めて研究・制作される様子が細やかに記されています。読んでいると、その植物の匂い立つような色彩が目に浮かんでくるのです。
私の場合には色というものは、天の配剤というか、自然の法則に従うのみーー。自分で工夫して色を掛け合わせることはないのです。
具体的にいえば、一つの植物の最もよい状態の時に採集し、それを又一番いい状態で煮出し、引き出していくーー。
それを繰り返していくうちに、経験によって少しずつ複雑な色も、純粋な色も、自分の心に副って出てくるように思われます。(p.56)
一つ一つの植物に対しても、代々受け継がれてきて小さな端切れになってしまった布に対しても、その内ににある美しさを慈しみ、命を生かしきるように心を込めて扱っておられる志村さんだからこそ引き出すことができる色なのだと思います。
文筆家としても活躍され、沢山の著作を出版されていますが、初期の作品集であるこの本は、染色家として生きていく決意をされた時期の日記が収められており、揺れながらも進んでいく、その過程の描写がとても良いです。
美術館に行かれる方もそうでない方も、ぜひ一度読んでみてください。
文:宮下ひろみ