毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、今回はトキシラズ山本さんです。
51のブック
『佐渡の三人』長嶋有 講談社文庫
『佐渡の三人』
発売日: 2015年12月15日
著者: 長嶋有 著
出版社: 講談社文庫
ページ数: 193ページ
サイズ: A6判
ISBN: 978-4-06-293229-5
皆さんいかがお過ごしでしょうか?トキシラズの山本です。うかうかしている間に8月で夏真っ盛りです。7月というのは、本当にあったっけ?というような心持ちですが、もうすぐお盆が来てしまいます。
とはいえ、気軽に帰省できないというような話も聞きますし、なかなか夏気分が出てこない!というあなたにオススメの本は、長嶋有『佐渡の三人』講談社文庫 です。と言って別に帰省の話という話かでもないんですが(違うんかい!)なんの話かというと、納骨の話です。死んだ人間が骨になってお墓のある佐渡島に帰るので、帰省と言えなくはないのです。
小説家の私、無職だけれど家で祖父母の介護をしてきた弟、古道具屋の父の3人は、隣に住む親類のおばちゃんの納骨にお墓のある佐渡ヶ島に向かいます。その道中を描いたのが表題作の『佐渡の三人』です。納骨の話ですが、骨壷がユニクロの袋に入っていたり、旅費と納骨代として預かってきたお金が全然足りていなかったりと、かなり抜けたやりとりが面白い作品になっています。そもそも、いくら親戚とは言え、隣の家の納骨に行くかな?と感じるのが普通だと思います。が、作中の人物たちは、そこに疑問はあまり感じていないし、代わりにやってあげているというふうでもありません。
そういう他の人から見ると奇異に映るところを、自然なこと、のように読ませるのが、この小説の素晴らしいところです。この小説の中で起こったことを説明すると、佐渡に行って、納骨した。でおしまいです。しかし、小説の中には、三人の会話や描写される風景があり、その一つ一つがそれぞれの性格や関係性を浮き彫りにしていきます。少し読んでいくと、いかにも隣の家の納骨に行きそうな三人に思えてくるのです。
私は小説というものは、「簡単に言うとこういうこと」の簡単にできなかった部分を理解するために書かれたもの。じゃないかと思っています。例えば生活の中のこんな会話。A「なんで別れちゃったの!?」B「んー、まぁ何かいろいろあって、性格合わなくて」A「そうなんだー」の“何かいろいろ”あっての部分が小説なんです。
その意味でこの『佐渡の三人』は小説の真骨頂とも言える作品です。わかりやすく言うと、「ふわっとゆるい小説」ですが、それだけではない様々な、“何かいろいろ”を読んで味わってみてください。ついでに佐渡旅行気分も味わえるかもしれません。
文:山本岳史(トキシラズ)
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