かきくけコラム :「大人にも響く子どもの本 」45


毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。

第45の発見:自分を見つめ直したい人へ:「百まいのドレス」1954

 

6月は自分を見つめ直したい時に読みたい本をご紹介します。

<あらすじ>
ワンダはとてもおとなしい女の子で、学校では目立たない存在。毎日、同じワンピースを着ているのに
家に百枚のドレスを持っていると言い張るので、からかいの対象になっています。
貧しくて、変な名前(後半で移民だということがわかる)で、うそつきだと思われていたワンダですが、
デザイン・コンクールで素晴らしい百枚のドレスを描くと、みんなの見る目が変わり始めます。
でも、ワンダは大きな町に引っ越してしまったあとで、もう謝ることすらできません。

<心に響く言葉>

マデラインは、ペギーのことばにうなづき、じぶんの目にうかんだなみだを、まぶたではらいおとしました。
そして、そのなみだは、いつもあのレンガべいのそばの日だまりに、ひとりぼっちで
立っていたワンダのこと考えると・・・そしてまた、じぶんのことを笑いながら立ち去っていく
女の子たちを、じっと見ていたワンダのことを思いだすと・・・「そうよ、百まい、ずらっとならんでる。」
とくりかえしいったワンダを思うと・・・いつもうかんでくる、なみだなのでした。
―『百まいのドレス』p84、エレナ―・エスティス作、石井桃子訳、ルイス・スロボドキン絵 2006、岩波書店

このお話はワンダの視点では何も語られていなくて、クラスメイトのマデラインの視点で語られています。
それまで自分たちがワンダにとった態度やかけた言葉を、どんなに後悔しても、
ワンダはすでに引っ越してしまった後で、謝ることすらできないというのがもどかしいのですが、
謝って仲直りをして終わるという単純な展開にならないのが、かえってリアルで納得できます。

ときには心の中では葛藤していても、強いほうに流されがちなマデラインの立場になることもあると思います。
ワンダが描いた百枚のドレスの絵が教室に貼り出される場面は子供でも大人でもドラマティックで興奮しますが、
後半でマデラインが後悔したり、悩んだりしている様子は成長した大人が読むとより受け取れるものが多くて
自分を見つめ直せると思います。


文責:赤松かおり
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赤松 かおり

赤松 かおり

本とお散歩と食べることが大好きなイラストレーターです。webやフリーペーパーなどで、イラストを描いております。

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