毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
1年に何度かある「第5週目」の水曜日にだけそっとていねいにつづられる、宮下ひろみさんの本についてのコラム「五週目のほんばこ」の14回目です。
14個めのほんばこ|のばらの村のものがたり『木の実のなるころ』ジル・バークレム・さく(講談社)
みなさん、こんにちは。
日中はまだ暑いですが、朝晩の風と虫の声がここちよい季節になりました。
今回ご紹介するのは
のばらの村のものがたり
「木の実のなるころ」
ジル・バークレム作
講談社
です。
ある秋の一日。
のばらの村のねずみたちは収穫の季節を迎え、みな忙しく働いていました。
のねずみの女の子プリムローズもお父さんと野いちごをとっていましたが、雨が降る前に帰るよう言われ、ひとり家へ向かいました。
花を摘んだり、かやねずみの家に招待されたり、おもしろそうなトンネルを見つけて入ったり、と寄り道しているうちに日が暮れて、迷子になってしまいました。
娘が家に帰っていないことに気づいた両親が周りに声をかけて、村中のねずみたちが探しますが、プリムローズは見つかりません。
暗闇の中で途方にくれたプリムローズは小さな光が5つ近づいてくることに気がつきました。
光のうしろにいるのは、ぶかっこうで、ふくれていて、頭もないへんないきものです。
やぶの中に潜りこみ、近づいてきたものの足音を数えます。怖くて目をつぶっていましたが、最後のものが通りすぎるとき、勇気を出して目を開けました。
それは足を引きずり、しっぽがあって、ひげがあって、大好きなおじいちゃんのズボンをはいていました。
嬉しくなって声を上げると、みんなが振りかえりました。お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、村の若者ダスティが探しに来てくれたのです。雨の中、マントを頭まで被り、灯りを持って。
すっかり安心したプリムローズは家に戻り、お母さんの声を聞きながら眠りました。
秋の日はつるべ落とし、という言葉のとおり、突然すこん、と暗くなりますよね。子どものころ、私の家は校区の一番端で、友だちと遊んで帰ると最後はいつも一人になりました。暗くなって、早足で歩いていると、自転車の光がゆっくり近づいてきて、祖母が迎えに来てくれるのでした。
その時の安堵感と「遅かったなぁ」と言う祖母の声と顔を、このお話を読みながら思い出しました。
この「のばらの村のものがたり」シリーズは他も素晴らしいので是非読んでみてください。
文:宮下ひろみ