不定期で、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという播磨出身のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。
第51の発見:再読したら印象が変わりそうな本『やさしいライオン』(1975)
3月は再読したら印象が変わりそうな本をご紹介します。
<あらすじ>
動物園で生まれたライオンのブルブルは母を亡くし、犬のムクムクを母として育ちました。成長したブルブルはサーカスに売られます。月日が流れ、ある夜、夢の中で懐かしいムクムクの子守歌を聞いたブルブルは、檻を破って飛び出しました。ひたすらに駆け、町はずれの丘で見つけたムクムクは、老いて死にそうになっていました。「おかあさん!こんどこそはなれないでいっしょにくらそうね」。しかしそのとき、追いかけてきた警官隊の隊長が「撃て!」と命令しました・・・。
<心に響く言葉>
そのとき けいかんたいのたいちょうは
「うて!」とめいれいしました。
うってはいけないのに
ブルブルは
とってもやさしい
ライオンなのに
―『やさしいライオン』p26、やなせたかし・作 1975、偕成社
作者のやなせたかしさんは有名な「アンパンマン」の作者です。
やなせさんの評伝によると、やなせさんは5才のときに父親を亡くし、その後母親が再婚したため、父親の伯父夫妻に引き取られて育ったそうです。離れて暮らす実母に会いたくてたまらなかった気持ちと、実母恋しさで反抗ばかりした伯母への悔恨がこのお話には反映されているそうです。
ラストの、母犬を背中にのせたブルブルが空に駆け上がっていくシーンでは涙がでました。
母犬を慕って逃げたライオンのブルブルも、町の安全を守るため仕事をした警官隊も誰も何も悪くないのに、悲しい結果になってしまうというお話に、やなせさんのもっている「世の中」に対するせつない視線が感じられました。
子どもの頃読むとただ悲しいお話に感じられそうですが、また大人になって再読したら印象が変わりそうな絵本です。
文責:赤松かおり
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