かきくけコラム :「五週目のほんばこ」1


毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

かきくけコラム

みんなの「かきくけコラム」

1年に何度かある「第5週目」の水曜日にだけそっとていねいにつづられる、本についてのコラム「五週目のほんばこ」が、きょうからスタートします。書いてくださるのは、図書館スタッフの宮下さんです。

五週目のほんばこ

みなさん、はじめまして。
今年から新しいコラム、「五週目のほんばこ」を担当いたします、宮下です。普段は小さな図書館のスタッフとして働いています。

タイトルバックの本箱は私が自宅で使っているものです。実家の祖母が大切に使っていたものを譲り受けました。

眺めているとほっとする、懐かしい気持ちになる思い出の本や、季節の本をご紹介していきたいと思っています。よろしくお願いします。

第一回目は甲斐信枝さんの絵本「雑草のくらし」と「ふきのとう」(共に福音館書店刊)です。

「雑草のくらし」甲斐信枝(福音館書店)

一年で一番寒い今の時期。今年は特に寒いのですが、冬至から一ヶ月もすると日が少しずつ長くなり、晴れた日差しに早春の気配が感じられるようになりました。

まだ固い梅のつぼみを眺めながら、思い出すのがこの本です。春を待つ草や虫たちが、土の中でじっと力を蓄えている様子が丁寧に描かれています。

「雑草のくらし」を初めて手にしたのは6歳くらいでしょうか。本好きの伯母がクリスマスに贈ってくれました。今でこそ大好きな絵本ですが、最初見たときは???という感じでした。

当時は動物が出てくる絵本やぬいぐるみが好きな子どもだったので、草が主役の絵本はよくわかりませんでした。小学校に入ると、帰りは道草ばかりして遊んでいました。家から学校が遠かったので、帰る道々、花や実を摘んだり、(時々食べたり)、虫を捕まえていました。

甲斐さんの絵本の良さに気づいたのは大人になってから。懐かしさもあって手にとってみると、細かい部分までよく観察し、正確に描写する画力、そして、目の付け所がすごいのです。

去年の春、何気なくテレビを見ていたら、麦わら帽子をかぶった元気なおばあちゃんが嬉しそうに話をしていました。御年86歳の甲斐信枝さんでした。

まるで自分の孫や近所の親しい子どもたちを紹介するような口ぶりで彼女が指さしたのは、空き地や畦で元気いっぱいにおひさまを浴びている草花です。

毎日朝早くから晩まで、フィールドを歩きながら植物や虫の様子を観察し、これと決めた目標が定まるとその前で何時間も座ってスケッチ。そんな生活をもう20年以上も続けているということでした。同じことを繰り返しているからこそ、見えるものがある、毎日通っているからこそ、植物が見せてくれる「お宝」があるのよ、と本当に楽しそうに笑います。

その発見をみんなに伝えたくて、特に小さい子どもたちに知ってほしくて、甲斐さんは絵本を描き続けているのです。

驚いたのは絵本の画面構成でした。見開きいっぱい、埋め尽くすように描かれる植物は、写真のように、目の前にある風景をそのまま切り取ってきたように見えますが、実は一つ一つの細かいスケッチを組み合わせて構成されているのです。

タネがはじけ飛ぶ様子を描くときは本物のタネをテープで貼り付けます。複数の植物を同じ画面に描くので比較しやすいように、細部まで正確に。

そんな沢山のスケッチの束から、ふいに出てきた煤で黒く汚れた絵。40年以上前、絵本作家としてデビューし、積極的に活動していた最中、隣家の火事が燃え移り、自宅が全焼してしまったのです。70冊もあった大切なスケッチブックはほとんど灰になり、焼け跡から見つかったのは数枚だけでした。

「でもね」と甲斐さんは笑いました。「植物の観察をしているうちに私は人生観が変わったの。草たちはね、長い歴史の中で自分たちは安心を知っている、って言うのよ。細かなことでガタガタ思うな、安住せよ、ちゃんと時間が解決するってね。」

また一からのスタート、そして取り組んだのが「雑草のくらし」制作のための空き地の観察でした。5年間、全く手を入れずに70平米の土地で雑草がどう成長していくのかを記録しつづけたのです。

なんとなく、同じ場所で観察を続けていたら、季節の巡りで主になる草は変わっても、一年経てば、また同じ風景に戻るように思いませんか?

でも、違うんです。一年目は地表を這うのが得意なメヒシバ、二年目は土手からタネをとばしてやってきた背の高いオオアレチノギク、三年目は蔓をのばすのが得意なカラスノエンドウ、次の年にはそれを覆うように上から巻き付いてくる大型のクズとヤブガラシ、毎年主役になる植物が変わります。そして五年目の春、全ての草を刈り取ったあとに、いち早く芽を出したのが、またメヒシバなのです。大きな草に覆われている間はじっと地中で待っていて、おひさまが届くようになると、いっせいに芽吹いて伸びていく。

植物たちの栄枯盛衰の様子は本当に面白いです。人よりもずっと短い草花の命。小さなタネや根っこにエネルギーをぎゅっと詰め込んで、今も土の中で出番を待っているのです。

「ふきのとう」甲斐信枝(福音館書店)

そして、今の季節にぴったりの、もう一冊の絵本「ふきのとう」

雪の中からひょっこり頭を出したふきのとう、おひさまにぽかぽか照らされて、春がやってくると花を咲かせます。黄色い花はおすふき、白い花はめすふき。ちょうちょが花粉を運んでゆきます。

おすふきは先に役目を終えて枯れ、めすふきはグンと背を伸ばして綿毛を飛ばす。たねを送り出すと、今度は根っこをうんと伸ばす。そしたら、おすふきも一緒に根っこをうんと伸ばす。大きな葉っぱのしたで、土の中で、また次の年に元気に芽を出す準備をしているのです。

歌うような文章が楽しい絵本で、寒くてちぢこまっている自分も一緒に応援してもらっているような気分になり、元気になります。

文中で紹介したテレビ番組のタイトルは「足元の小宇宙Ⅱ」(NHKスペシャル)。

甲斐さんは植物を見るとき、必ず相手と目線を揃えるそうです。「上から見下ろすのと、美しさが全然違うのよ」って。

少しずつ春が近づいてきます。暖かい日にはちょっと歩を止めて、足元の小さな世界を覗いてみませんか?

※甲斐さんの絵本の世界をより深く知りたい方は、エッセイ「小さな生きものたちの不思議なくらし」(福音館書店)もおすすめです。

文:宮下ひろみ

公開日 : 2018-1-31
最新更新日 : 2018-1-31

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