毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
小さなころから本好きで、常に本を持ち歩く子供だったという姫路在住のイラストレーター、赤松かおりさんによる、大人になってからこそ読みたい子供の本、「大人にも響く子どもの本」はじまりますー。
第9の発見 落ち込んでいる人へ:『クマのプーさん』1926
ディズニ―アニメで有名な『クマのプーさん』ですが、今回紹介するのは、プーの仲良しのロバのイーヨーです。
<あらすじ>
幼いクリストファー・ロビン少年が、イギリスの森を舞台に、仲良しのクマのプー、コブタ、ウサギ、ロバのイーヨーたちとのどかな日常を繰り広げます。
イーヨーは森の片隅の湿地に住み、何事にも極度に悲観的で、一人でくよくよと考えている年老いたロバです。
いつも「なぜ?」「なにがゆえに?」「いかなればこそ?」と考えごとをしていて、プーが遊びに来てくれても、しめっぽい声でしか返事ができません。
そんなイーヨーの誕生日、コブタはイーヨーに風船をプレゼントしようとしますが、転んで割ってしまいます。
しかしイーヨーは「けがはなかったかな?コブちゃんや?」と優しく心配します。
そして、プーからプレゼントされた壺に、風船はそのままだと大きくて入らないけれど、割れたから入るようになったといって、風船を大事にしまいます。
<心に響く言葉>
「そうじゃ。」と、イーヨーはいいました。「わしの風船は、このなかへはいるぞ。」
「いや。そりゃ、だめだ、イーヨー。」と、プーはいいました。
「風船はね、大きくって、つぼには、はいらないんです。風船は、どうするかっていうと、手にもって―――」
「わしのは、ちがうぞ。」イーヨーは、とくいげにいいました。「コブちゃんや、見なさいよ。」
そして、コブタがかなしそうにふりむくと、
イーヨーは、風船を歯にはさんでつまみあげ、ていねいにつぼのなかに
いれました。(中略)
イーヨーは、しあわせこの上ないというようすで、風船をだしたりいれたりしていました・・・。『クマのプーさん』A.Aミルン作 石井桃子訳 岩波少年文庫 p134‐135 1926
児童文学には、明るく前向きなはつらつとしたキャラクターが登場することが多いですが、イーヨーはいつもかなしげで、くよくよとしています。
現代の私たちも、日常生活で大変なことが立て続き、落ち込んでいるときに、前向きな人に「もっとがんばれるはず!」と元気づけられるのはありがたいですが、
「ポジティブになれない自分はだめだ…」と、その言葉がプレッシャーになり、逆に悩んでしまっては仕方がありません。
そんなとき、イーヨーのような、ナイーブで暗い部分も持っていて、一緒に沈んでくれる繊細な人(ロバ?)がいると、「そういう部分もあって大丈夫なんだ」と安心します。
この「イーヨーがお誕生日に、お祝いをふたつもらうお話」でも、風船を割ってしまったコブタを責めず、逆に大げさに元気づけず、自然体で受け入れるイーヨーの繊細なやさしさに、私は励まされました。
文責:赤松かおり
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