毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、45回目は陽文庫みずいけさんです。
あけましておめでとうございます
あけましておめでとうございます。
今年もお手柔らかにお願い致します。
今年の目標は…と、たまに聞かれますが、特にないです。願望と欲望はありますが、目標はないです。
そういえば年明け早々に「夢は何ですか?」とけっこう本気で聞かれて、餅を食べすぎたわけでもないのに喉がつっかえました。しいていえば「日々機嫌よく」今年の目標でしょうか。そんな風になれればいいな、という願望のような気もしますが。
さてさて今回は珍しく?詩を紹介したいと思います。
「倚りかからず」や「自分の感受性くらい」で有名な茨木のり子さんの「行方不明の時間」という詩です。
45のブック
「行方不明の時間」茨木のり子(『谷川俊太郎選 茨木のり子詩集』より)
発売: 2014/03/14
著者: 谷川俊太郎 選
出版社: 岩波書店
サイズ: 文庫
ページ数: 277ページ
ISBN: 9784003119518
僕なんぞが解説するより、そのままみてもらった方が良いかと思うので、今回はラジオDJのように。曲(詩だけ)紹介して、去りたいと思います。
エッセイストの川口葉子さんも『誰でもない人間となってただぼんやりとするために、カフェの扉を開けて行方不明になる』と言っています。けれど実際は、心休まるいい感じのカフェには人が集まるし、狭い世間の中で「行方不明の時間」を作るのもなかなか難しいなと感じます。
ではではどうぞー。
行方不明の時間
茨木のり子人間には
行方不明の時間が必要です
なぜかはわからないけれど
そんなふうに囁くものがあるのです三十分であれ 一時間であれ
ポワンと一人
なにものからも離れて
うたたねにしろ
瞑想にしろ
不埒なことをいたすにしろ遠野物語の寒戸の婆のような
ながい不明は困るけれど
ふっと自分の存在を掻き消す時間は必要です所在 所業 時間帯
日々アリバイを作るいわれもないのに
着信音が鳴れば
ただちに携帯を取る
道を歩いているときも
バスや電車の中でさえ
<すぐに戻れ> や <今 どこ?> に
答えるために遭難のとき助かる率は高いだろうが
電池が切れていたり圏外であったりすれば
絶望は更に深まるだろう
シャツ一枚 打ち振るよりも私は家に居てさえ
ときどき行方不明になる
ベルが鳴っても出ない
電話が鳴っても出ない
今は居ないのです目には見えないけれど
この世のいたる所に
透明な回転ドアが設置されている
無気味でもあり 素敵でもある 回転ドア
うっかり押したり
あるいは
不意に吸いこまれたり
一回転すれば あっという間に
あの世へとさまよい出る仕掛け
さすれば
もはや完全なる行方不明
残された一つの愉しみでもあって
その折は
あらゆる約束ごとも
すべては
チャラよ(『谷川俊太郎選 茨木のり子詩集』岩波文庫)
文:みずいけあきら(陽文庫)
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