かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」49

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、今回はトキシラズ山本さんです。

49のブック

『錆と人間』ジョナサン・ウォルドマン 築地書館

『錆と人間』
発売日: 2016年9月
著者: ジョナサン・ウォルドマン 著、三木直子 訳
出版社: 築地書館
ページ数: 356ページ
サイズ: A5判
ISBN: 978-4-8067-1521-4

人には避けては通れない戦いがある。避けて通れる戦いに首を突っ込むのは愚というものだが、平穏平静を旨とした生活の上にも降りかかってくる戦いだってある。生きていくということは、これ即ち争いの中にいるということ、、、。なんていうとそれっぽいかな?と思いましたが、いまひとつピンとこない感じてす。きっと違いますね。

今回の本は『錆と人間』と言います。原題は『RUST The Longest War』という本です。直訳すると 「サビ 一番長い戦争」です。地球上でもっとも古い錆にまつわる記述は約2000年前の古代ローマ陸軍の指揮官が「投石器の金具が錆びてるから故障が多くてかなわんわー」という記述だそうで、そんな昔から人々は錆と戦っていたんですね。まあ、その時点でローマ軍はなにがしかと戦っているわけで、Longestかどうかはわかりませんが、相当長いことは間違いない!

自動車会社は錆との戦いに敗れ、何百万台もの車をリコールする。鉄製の橋は崩落の危機が常にあり、船は海に浮かんでいるだけでどんどん腐食していく、と言って陸にあげてももちろん錆と無縁になるわけではない。なんと物は宇宙でも錆びている。アメリカでは毎年GDPの3%が錆のためになくなっている。これはつまり4370億ドルという大金が錆のために毎年なんとなーく、ぼんやーり、じみーに、なくなっている。ということ。

本書はそんな錆と人間のあれこれをユーモアと情熱でまとめあげた本です。缶飲料の実態を暴こうとしてじゃけんにされたり、石油パイプラインの検査に同行したり、はたまた錆専門の写真家を追いかけたり。錆にこんなにも切り口があるのかと驚かされる重厚さです。

中でも衝撃的だったのは、「アメリカのシンボル自由の女神が実はボロボロでした」というエピソード。発端は1980年。登山家のエド・ドラモンドはある抗議活動のため自由の女神に登り、一晩を過ごしました。翌日には無事に降りてきてあえなく逮捕となったのですが、登った後を調べてみると自由の女神にポツポツと穴が空いている。担当者は激怒「テメー楔うったんだろ!」登山家エドは、決してそんなことはしていないと弁明します。調査をしてみますと、なんと女神はどこもかしこもボロボロの穴だらけ、特に松明を持つ手は負荷がかかっていつ崩落するかわからない有様。

アメリカのシンボルを守りたい人々、巨額の修繕費を出し渋る行政、果たして建造100年目の大修理は完遂できるのか。

地味だけれども、言われてみると確かに大ごと、そんな世界を覗けた1冊でした。

文:山本岳史(トキシラズ)
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あさのは商店

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姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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