毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、Books&cafe トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、58回目は陽文庫みずいけさんです。
58のブック
「はたらかないで、たらふく食べたい ~『生の負債』からの解放宣言」栗原康 タバブックス
発売: 2015/4/21
著者: 栗原康
出版社: タバブックス
サイズ: 18.8 x 12.8 x 2.5 cm
ページ数: 228ページ
ISBN: 978-4907053086
著者の栗原さんは大杉栄など、アナキズムを研究する政治学者。
以前、このコラムで栗原さんの『執念深い貧乏性』(文藝春秋)を紹介した気がするが、この本はそれより数年前に書かれた本だ。
《アナキズムとは、権力的支配や国家、政府のような権力機関の存在を極端に嫌い、人間の自由に最高の価値を置く思想》
写真を見る限り著者はイケメンだが、言っていることもやっていることもアナーキーだ。アナキズムというと、国家転覆を企てたり、反逆者のイメージで、どこかキナ臭いにおいが漂うが、栗原さんのそれはどこか笑える。
『はたらかないで~』時点での栗原さんの境遇は、
35歳、独身で埼玉県内で実家暮らし、フリーター。大学院を博士過程まででたものの、その後、定職につくこともなく、大学や塾で非常勤講師をする。年収は80万円。
ちょっと背中がゾクゾクするような輝かしい(僕から見て)背景をお持ちで、世間からみたらダメ人間のレッテルが簡単に貼られそうな経歴だ。
友人がセッティングしてくれた合コンで知り合った女性(小学校の保健の先生)と、偶然にも隣町に住んでいることがわかり意気投合する。
福島での震災の翌日、隣町に住む彼女が「カメロンパンといいます」と何故かカメの形をした緑色のメロンパンを焼いて持ってきてくれる。著者は若干とまどうが、嬉しくなり、その後正式に付き合うようになる。
彼女は30歳。結婚を約束し、ゼクシィも購入するが、著者は年収10万円(当時)だ。仕事について毎日のように彼女にせっつかれるが、仕事は決まらず、収入はあがらない。
それもそのはず。
本音では、はたらかず、部屋でゴロゴしながら、好きな本を読んで、好きな研究をして生きていきたいのだから。(他にも、本文中では、ただのわがままか、駄々っ子かとも思えてしまうが、「モテたい」と「合コンしたい」を連呼している。)
つまり、やりたいことしかやりたくない。
著者の研究対象である大杉栄もそういう人だ。
仕事が決まらず、うだつのあがらない著者に、彼女はとうとう痺れをきらす。
「もう我慢できない。おまえは家庭をもつ、子どもをもつということがどういうことなのかわかっているのか。」
と。
著者が逆に「やりたいことをやらないなら、なにがたのしくて生きているんだ」と彼女に問うと、彼女は即答する。
「ショッピングにきまっているでしょう」
と。
この彼女の返しが、僕の中では本書のハイライトシーンだ(なんというか、こう言いきれる彼女の方がある意味ではアナーキーのような気もするが)。
●人よりいい暮らしがしたい
●いい車に乗りたい
●タワーマンションに住みたい
●高級店でご飯を食べたい
●人より多くディズニーランドに行きたい
など。
こんなことが人間の目標か、と思うと、脱力しそうになるが、こう思う人は少なからずいるのだと思う。
最後に、あとがきにいいことが書かれてたので、長いですが紹介します。
かせいだカネで家族をやしないましょう、よりよい家庭をきずきましょう、家をたてましょう、車をもちましょう、おしゃれな服をきて、ショッピングモールでもどこでもでかけましょうと。
これがやばいのは、そうすることが自己実現というか、そのひとの人格や個性を発揮することでかるかのようにいわれていることだ。まるで、カネをつかうことが自分のよろこびを表現しているかのようだ。ショッピングをたのしまざるもの、ひとにあらず。この消費の美徳にあらがうのは容易ではない。ひととしておわっているとみなされた者たちにたいして、この社会はほんとうにきびしいのだから。
p220
今の時代にアナキズムって要るのか?と思っていましたが、著者の発言を聞いていると、今だからこそ必要なものの気がしてきます。
おわり
文:みずいけあきら(陽文庫)
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