毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。
「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、Books&cafe トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、60回目は陽文庫みずいけさんです。
60のブック
「ASAKUSA STYLE -浅草ホームレスたちの不思議な居住空間-」曽木幹太 文藝春秋
発売: 2003/5/27
著者: 曽木幹太
出版社: 文藝春秋
サイズ: A5判変型
ページ数: 120ページ
ISBN: 978-4-16-365010-4
東京浅草のホームレスの方の住まいを写したフォトドキュメント。
覗き見主義的といえばそれまでだが、独自に作り上げた住居はオリジナリティに溢れていて、写真にはとにかくインパクトがある。
『俺んちはビシッとしてんぞ』という86ページの、おっちゃんの家は間の抜けた僕の部屋とは違い、確かにビシッとしている。
そして、日々の生活を、少しでも楽しく、気分良く過ごしたいからか、何かしらデコレーション(壁に絵などを描きつけたり)のある家が多い。
元建築関係(今も?)仕事に従事している人が多いからか、電気配線、収納棚の作成、太陽光発電システムなども自作で行っており、それらはDIYの域を超えている。
夕食のおでんの写真も【はんぺん、ちくわ、ごぼう天、大根】とあり、豪勢だ。
15 ページの天ぷらの盛り合わせとレバニラ炒め、おひたし等が並んだボリューミーな食卓には、ぼんやりと持っていた先入観が覆される。正直、写真を見て食欲がそそられる人も多いかと思う。
実用性に優れた、機能美溢れる住まいを見ると、あまり余計なものがないので、正直な感想として「自分の部屋より綺麗だな…」と思ったりしてしまう。
違いは、きちんとした建築物ではないのと、住所がない(たぶん)だけなのかもしれない。
その場所で食べて寝て、毎日の生活を送る。
楽しみは、テレビを見たり、お酒を飲んだり、仲間内で話しながらご飯を食べたりすることだ。
これはホームレスではない人と同じだ。
明日は仕事だから、酒はここまで、とストップするのも普通の人と変わらない。夫婦で暮らす人もいる。
何が違うのかな、と思いながらページをめくっていたが、結局、あまり見つからなかった。(中にはフーコー、ランボーなどの哲学書が並ぶ家もある。)
楽しみにしていることも、毎日の営みもそう変わらないのだ。
高価なダッチオーブンを車で運び、バッチリ食材を準備して、綺麗なテントで、綺麗な服を着て、ええ寝袋に入って寝るという、体温調節バッチリの最近のキャンプ(ほとんどキャンプしたことがないので、思い込みかもしれないが…)も、寒空の下というのは一緒だ。
しかし、コントロールがなく、何か原始的なものが感じられるホームレスの人の住まいの方が、人間の生命力みたいなものを感じさせられる。
どこを切り取っても、人間の「ザ・生活」が写し出されている本書は、リアリティーがあり、どこまでも写真は生々しい。高級家具やオシャンティーな調度品はほぼ登場しないが、飽きることなく読める一冊だ。
また機会があれば読んでみてください。
おわり
文:みずいけあきら(陽文庫)
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