かきくけコラム :「ブックブック こんにちは」52

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

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「陽文庫-アキラブンコ」のみずいけさんと、ブックカフェ・トキシラズの山本さんがかわりばんこにつづる、本にまつわるコラム「ブックブック こんにちは」、52回目は陽文庫みずいけさんです。

52のブック

「家をせおって歩いた」村上慧

発売: 2017/4/17
著者: 村上慧
出版社: 夕書房
サイズ: A5変形
ページ数: 304ページ
ISBN: 978-4909179005

美術家である著者が、発泡スチロールで自作した家を背負いながら、日本国内を歩いたときの日記。当初は著者のウェブサイトで公開していたものを、本にまとめたものとのことです。

「行き過ぎかな」と思ってしまうのは、まだ僕自身がどこか「歩いて本州一周の旅」みたいなつまんない名目に踊らされているんだろうな。移動が目的なんじゃない。移動を常態化するのが目的なのだ。夏は暑いから北上してるだけなのにな。
(p102)

2011年、友人と借りたアトリエの鍵を受け取ったその日に、東日本大震災と福島第一原発事故が発生。
それから3年後、著者は家を背負って歩くという『移動を「生活する」』暮らしを始めます。

僕は自分が弱い人間なのを知っているから、わざと家を分解できないようにつくった。歩くしかない、動くしかない環境に自分を放り投げる。そうすることでたくさんの発見があった。人は弱いから、放っておくとどうしても便利なほうに流れて思考が止まってしまう。
(p147)

なぜ著者は歩きだしたのか。
日本全国を歩いて出会った人、起こった出来事、無数の反応、著者が考えたこと、いろんな記録がまとめられています。

僕は一次情報を自分で処理できない人間になりたくない。テレビやニュースや誰かが書いたレビューや人の噂を通して自分の評価を決めたり変えたりするような人になりたくない。なにが面白くてなにが面白くないか、なにが嫌でなにが嫌じゃないかくらい、自分で判断できるようになりたい。生活を送るのに精一杯でほかのことを考えられないというのはすごくわかるけれど、自分で考えたり判断したり情報収集したりできないというのは、動物みたいで嫌じゃないか。
(p150)

 

普段は会社に行ったり、カフェに行ったり、飲み屋に行ったり、もしくは家族と過ごしたり。
必ずしも自分で作った空間にはいないけれど、ある程度の規律の整った場所にいることが多いかと思います。

そんな暗黙のように張り巡らされている日常の結界のようなものを打ち破る。村上さんは突破しまくってますが、突破しまくってるからこそ、出会う人との、普段の生活では交わすことのないような会話が生まれるのだと思います。
それがとても羨ましいです。

村上さんが凄すぎて、ページをめくるたびに村上さんへの嫉妬が溢れてきますが、こんな短いコラムでは言い表せない素晴らしいものが本書にはあると思います。

村上さんと同じように家を背負っては歩けないし、村上さんのいうところの『移動を生活する』とは全然違いますが、また僕も村上さんにならって、どこか遠くまで歩いてみようと思いました。

村上さんはこうも言います。

油断するとすぐに、自分の身内から学ぶことを忘れる。自分が学ぶべきことは、本やテレビやインターネットや有名人のセリフの中にだけあるように思い、友達や家族からは学ばなくなる。これはこの社会の刷り込みだと思う。
(p265)

ごもっとも!
(などと言いながら、僕は今日も朝から新聞を読み、Yahooニュースを見て、挙げ句の果てには本を読みながら、このコラムを書いてしまってますが)

村上さんスゲエ!と思うだけでなく、自分に起こること、また身の周りに起こることは、巡り巡って自分自身の問題でもあると思うので、またこの本を読みながら、思索を深めていければなと思います。

おわり

文:みずいけあきら(陽文庫)
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あさのは商店

あさのは商店

姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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