かきくけコラム :「おばあちゃんZの言葉」05

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毎週、てくてくひめじ界隈で得意な分野を持つ方々にコラムを書いていただくコーナー「かきくけコラム」。

姫路の言葉が好きな、あさのは商店店主・篠原玲子による「おばあちゃんZの言葉」の5回目です。

過去の連載記事はこちら
01の言葉 何しよってん ゆーて ゆーたらな
02の言葉 行っきょっての人
03の言葉 姑さんがな、握っとったったら
04の言葉 チラシもええで、あんた

Zの言葉05

前回に続き、Zのはがきについて書きます。言葉と内容の両方について書けるネタが、録音した会話データからうまく見つけられなかったのと、はがきの話の反響が想像以上に大きかったため、調子に乗って続けます。

Zのはがきは週に何枚も来ますし、内容も似たり寄ったりのことが多いので、さっと流し読みをして、その辺に積んでおくことが多かったのです。しかし、コラムに書いたあと、「あのはがきが欲しい」とか「すてきなおばあちゃん」とか言ってくださる方が何人もあって、あーそうなのか、と、前よりもまじめに切り絵を見たり、文章を読んだりしています。

下の写真は、探し物をしていて引き出しから出てきた、3年前のはがきです。

IMG_2818

私が始めにした事・・・お客様の名ボを作りました。

貴女のお店にはそれは必要に思います。

それだけで心やすくなります。

賀状、お見舞(夏、寒)状・・・。

そのアイサツに私のこんな切ヱのハガキ使っても?

チョットヒヤク過*?

もし良かったら**助します。幸せ。

面白いと思はへん??私でよかったら使って・・・。

<2013年1月18日の消印>

貴女のお店にはそれは必要に思います

Zは、商売をしている家に嫁いで、70代まで店に立っていました。Zがまかされていたのは、いまなら「雑貨屋さん」と呼ばれる類の店で、文房具やぬいぐるみ、オルゴールなど、いろいろなかわいいもの・きれいなものを扱っていました。だから、私が小さい店をしていることは気になるらしく、なにか思いついたことや思い出したことがあると、ちょこちょこと言ってきます。

そんなとき私は、扱っているものが違う・時代が違う・規模が違う・考え方が違うなどと思いながら、生返事をしています。このはがきにある「名簿を作る」ということも同じで、商品の取り寄せや発送などのためにお客さんの連絡先を聞くことはありますが、売り出しなどのダイレクトメールは送らないし(売り出しをしないので)、年賀状などもほとんど出したことがありません。

私の店は、5年目にはいる4月から営業日を変えることにしました。来られる方には直接伝え、ホームページやFacebookページでもその旨のお知らせをしています。しかし、当然ながらそれだけでは不十分で、せっかく来てくださったのに休み、ということも起こるだろうと、申し訳なく思っています。連絡先を知っているお客さんには、お知らせのはがきを出すつもりでいますが、ここに来て、やっと、Zの助言をちゃんと聞いて実行しておけばよかったと反省しています。ダテに50年も店に立っていたのではなかった!!

お客さんに年賀状や暑中見舞いを出すと、「来てよ!」「買ってよ!」と言っているようで押し付けがましいような気がしていました。しかし、実際には、来て欲しい・買って欲しいと(強く)思っているし、自分がお客だったとしても、「気に入っていただけそうな品物が入りましたよ」とか「季節の商品をまた見に来てくださいね」とはがきが来るのは、そう悪い気はしないのではないかと思ってきました。

今回の営業日変更のお知らせは印刷しますが、心機一転の5年目は、Zのはがきでお客さんにもお便りをしてみようと思います。

面白いと思はへん??

つい最近、漢字や仮名遣いの歴史的な変遷について読みました。現在の仮名遣いが一般に使われるようになったのは戦後のことで、それまでは「ゐ」「ゑ」などを含む「歴史的仮名遣い」が用いられていたとのことです。

これまで特に考えたことはなかったのですが、Zの文字には歴史的仮名遣いがまじっています。上の写真では、「切ヱ(切り絵)」と「思はへん(思わへん)」がこれに当たります。

歴史的仮名遣いには一定の法則がありますが、例外もあるようで、現代の私にとってはなかなか難解です。以下に「エ」の音についての法則と具体例を、手元の本から転記します。「見える」は「え」、「植ゑる」は「ゑ」、「考へる」は「へ」などと、ひとつひとつ覚えていたということです。

◆エ音の表記
エ音が語頭にあるときは、主として「え」と書き、語中・語尾にあるときは主として「へ」または「え」と書く。例外として、語頭に「ゑ」を用いる語が約十五語、語中・語尾に「ゑ」を用いる語が約十五語、「え」を用いる語が約五十語ある。

(『新編 校正技術 [講座テキスト版③]』2015, 日本エディタースクール)

え・・・枝 枝 心得 見える 栄誉
ゑ・・・声 植ゑる 絵 円 知恵
へ・・・家 前 考へる 帰る 救へ

(『標準 校正必携 第8版』2015, 日本エディタースクール)

Zのはがきは、「思ひます」ではなく「思います」となっていて、歴史的仮名遣いと現代仮名遣いが混ざっているのがわかります。しかし、仮名遣いの変化などはほんの一部分で、大きく変わっていった時代を生きてきたのだろうと思いました。

文:篠原玲子(あさのは商店)
http://www.asanoha.net/

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あさのは商店

姫路生まれ・姫路そだち。姫路→大阪→徳島→姫路。
肌の弱い自分が必要なものを近くで買えるとうれしいなーと、肌にやさしい日用品「あさのは商店」をしています。
趣味は、ウクレレ・縫い物・言葉の観察など。

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